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――依存症。 “WHOの専門部会が提唱した概念で、精神に作用する化学物質の摂取や、ある種の快感や高揚感を伴う特定の行為を繰り返し行った結果、それらの刺激を求める抑えがたい欲求が生じ、その刺激を追い求める行動が優位となり、その刺激がないと不快な精神的・身体的症状を生じる精神的・身体的・行動的状態のことである”……とは、某フリー大百科辞典の言葉。 どういうことか、といえばつまりそれだけの意味。 ――刺激を求めて欲求のままに動く。 つまりは、そういうことである。 ――――――――――――――― 「その資料でしたら、第七管理区のディルスペル提督が持っているはずですからそっちにお願いします」 「ええ、第3分隊は、そっちの調査を急いで。初動を急がないと相手はそれなりのプロです!」 「分かってます。すぐに増援要求は出しました。近くの保安隊と陸士部隊にも直ぐに出動要請をかけてください!最優先です!」 矢次に凛々しい姿とその執務官用のバリアジャケットに身を包んで次々と来る質問に答えていく。 金色の長い髪を揺らし、そのほのかな雰囲気を周りに散らし、男性にはつい見とれさせるような雰囲気を。女性には憧れをつい抱いてしまうような凛々しさを感じさせ。 ことの始まりは、ミッドチルダ地上クラナガンで起きたとある爆破事件だ。 たまたま、その事件に彼女、フェイト・T・ハラオウンは巻き込まれ、爆破現場に急行すると周辺に展開していた調査隊にそのまま次々と命令を下していた。 彼女の現場指揮権は地上であろうがどこであろうが、管理局員がいるところでならば可能なのだ。何より、その場にいた部隊の部隊長は頼りがなく連続爆破らしく、情報も錯乱していた。 フェイトが来てからは、まず周辺の警察・陸士部隊を動員した封鎖線を展開し、さらには空からも怪しい人物の確保をするために増援を要求……陸と空は仲が悪いといわれているが、命令を出しているのがフェイトなのだからそんなことも気にせず、縦割行政ってなに、といわんばかりに部隊を動員すると、すぐに初動捜査を進めていた。 同時に、管理局のデータベースに照会を依頼して犯人らしい人物を探し出させていた。 お陰で、犯人の大半は捕まり、残りも僅か、とこの手の爆破テロに関しては予想以上に早く解決がされていた。 管理局執務官、といえばエリート中のエリートなのだが、フェイトはその中でもわけ隔てない性格から執務官らしくない執務官と言われるがゆえのものなのかもしれない。 「ハラオウン執務官、第441早期警戒隊から最後の犯人の捕獲に成功した、との報告です」 「そうですか……これでひとまず安心ですね。後は、この事件を利用して暴動を起こす人たちがいるかもしれませんから、ミッドチルダ警察に警備の強化を要請しておいてください。事故現場の復旧部隊は?」 「はい。12時間以内に復旧は可能だと。既に首都防衛隊の第45陸士隊が追加で来ているようです。引継ぎ任務に移りますか?」 「ええ。そうしましょう。皆さん、いきなり呼び出してすみませんでした」 事件発生が6時間前。それとほぼ同時にフェイトは現場について、直ぐに自分の執務官権限で自分が持つ部隊を呼び出した。ここで指揮管制をしていたのがそれで、そこには元機動六課だったシャーリーの顔まである。 集まったメンバーに謝るフェイト。今日はお休みだったはずなのだ。いきなりの召集できっとみんな不満だろうから、とフェイトは自分が悪いわけでもないのにひたすらに謝る。これでは謝られたほうが困る。 別にフェイトさんが謝ることじゃないですよ、という言葉がかけられても苦笑いをするだけ。この謙虚さもフェイトの特徴といえば特徴なのかもしれない。 「とにかく、これで引継ぎが完全に終了したら終わりだから。みんな、悪いけど、もうちょっとだけがんばってね。後で長期休暇をみんなの分申請するから!」 現場で働く救助部隊を含めて、フェイトが声をかけて、全体の士気が上がる。事件が解決しても、まだ爆破事件で起きたトンネル崩壊など、要救助者はいるのだ。フェイトもこれから救助に向かおうと、またバリアジャケットに魔力を注いで防御力を上げる。 それは、ある意味凛々しさの象徴のような、強く強い言葉だった…… ただ、その後に小さく言った言葉を除けば。 「……ふふふ…………後で…………だよ…………私は……えへへ……」 ―――――――――――――― 後日のテレビ、新聞、ネットを含めて、すべてのマスコミのニュースはその事件で持ちきりだった。 時空管理局の無限書庫でも、それは同じ。 某新聞社の一面なんかは『漆黒の執務官がわずか数時間で事件を解決!』と銘を打って、特集までしている始末。執務官の個人的な情報まで特集しては、もうそれは新聞とは言えない単なるゴシップなネタすら含んでいた。 まあ、ミッドチルダにおいても、新聞社の衰退というか、地上本部の力が弱まっている中でのことなので、何か持ち上げる事件が欲しかったのだろう。新聞社を抜きにしても、テレビでも特集。 インターネットにおいては、あの執務官の話で一杯だ。某巨大掲示板では、彼女の凛々しさのせいか、個人ファンクラブまで結成されたという始末。 世の中、誰もが求めるものなのだ。 こういった完璧超人で性格よし、ルックスよし、その上悪い噂もない潔白の若々しさもある人を。 「……とはいえ、ここまでよくもまあ持ち上げたよねぇ……」 無限書庫司書長。ユーノ・スクライアは朝から無限書庫に来て、事務室に入るとのんびりとコーヒーを入れて、副司書長以下のいる中、普通に司書長用の椅子に座って今日の朝刊を読んでいた。ミッドチルダ経済新聞。ミッドチルダの新聞社の中では、管理局、特に地上本部寄りと言われるこの新聞社では、もう美々淡々と言った感じで、この機会を逃すものかと、管理局地上本部の功績や、この功績の張本人である執務官を持ち上げてばかりいた。 ……やれ、美人執務官の何とやら。やれ、仕事への態度は真剣そのものやら。 「半分ぐらいは事実なところが、ある意味皮肉じゃないんですか、これ?」 「うーん。フェイトって確かにそういうイメージがあるよね」 というか、基本的に書いてあることが間違っていないところが、この記事の凄いところじゃ、とソニカ・ミスリレック副司書長は淡々と同じ新聞を読んでいて思った。 ソニカの対面にいるアルフにいたっては「どうだい!うちのフェイトは!」は朝からずっとこのことばかり言っていて、夜勤だったソニカの脳内にギンギンとその言葉が響いていた。 ――正直、分かったから。 「というか、この執務官ってやっぱりフェイトさんですよねぇ……いやぁ、私には想像できない!」 「なんだって!?うちのフェイトのことを文句言うのか、ソニカは!」 「まあまあ、アルフ。落ち着いて、ねぇ?」 新聞を机の端においたソニカがそう口にすると、アルフが売られた喧嘩は買うとばかりに声を出してソニカへと近寄る。まさしく、聞捨てならなかったらしい。 ユーノが仕方なくコーヒーを置いてアルフをなだめに入る。基本的に、アルフとソニカ副司書長の中は良くない。一緒にいる今の状況自体が稀なのだ。 「いやだって。ハラオウン執務官って言えば、こうなんていうんですか。バカっぽい?」 「……君も相当酷いこと言うよね。まったく……まあ、ここまで大げさにしたいのは、ある意味では管理局地上の不安定さもあるんだろうけどさ」 「レジアスのおっさんが死んでから、地上の検挙率が落ちたんだっけ?」 思い出した様にアルフが適当にウインドウを操作して検挙率一覧を出しながら言う。レジアス中将がいなくなり、同時にミッドチルダの裏の支配者だった最高評議会も消え、スカリエッティ一味が消えたことで一時的には事件の比率は落ちたものの、このところ重犯罪というよりも軽犯罪の検挙率が低下している。 基本的に地上本部のモラルが低下しているのだ。レジアスの後を継いだ地上本部長は、事実上の本局の傀儡ではやれることがない。いやでも落ちるというものだ。 今回の事件で、どうにかしてこの落ちる一方のグラフを押しなおしたい、という管理局の裏事情が見えみえしているのだ。そこには。 「管理局としては、何かしらアイドル的存在が欲しいってことだろうね。なのはにせよ、ヴィヴィオにせよ……今回のフェイトにせよ」 戦技教導隊のエースオブエースにして、先のJS事件最大の功労者、として地上では有名人扱いな高町なのは。聖王教会としてはなんとしても抑えたい、その事件での関係者こと高町ヴィヴィオ。 JS事件の家族愛を訴えるテーマでは、絶対に出るような二人の名前を思い出すユーノ。ヴィヴィオはこの無限書庫にも良く顔を出す。実際によくあることだが、偶像と実像の差はあっさりなほど強い。ヴィヴィオは弱虫ですぐに泣きたくなるけど……でも、がんばろうとするよくいる小さな女の子だということを知る人は無限書庫には多いが、きっとニュースの偶像ばかり見ている人は絶対に想像できないだろう。 それは、なのはにしてもだが。 「フェイト執務官の場合、確かにこういうところを見ると、本当に私もあこがれたいぐらい凛々しいカッコよくて何でも出来て、完璧超人で……と思いますよ?」 そりゃ当たり前ですよ、と言わんばかりに自分用のコーヒーを手に取りながら朝食を取るソニカ。 誰しもあこがれるようなテンプレートのような女性。まあ、確かにそうかも……とコーヒーを同じように手にとって飲むユーノ。アルフもそれには同意らしく、何も言わずにただ頷いていた。 「確かに。フェイトってどういう人って聞かれたら、僕はそう答えるね」 「あー。でも、この三流ゴシップみたいな『高町教導官との熱愛!?』的なのはイヤですね」 「それは、むっかしからついてくる話だからねー。私もフェイトに話して相当驚いてたよー」 ガクッとアルフの言葉を聞いて少しばかり漫画のように呆れるユーノ。 フェイトはアルフに言われるまで気づかなかったのか……と。 コーヒーが危ないと思ったのか、再び机に置く。 「六課のときは同室、一緒に寝ていて、フェイトは何を言っているんだか……」 「そういうところが、バカな子なんですよ。いや、それだけじゃなくて……」 思い当たる節があるのか、とりあえずコーヒーを一口入れる。渋いブラックコーヒーが脳内を刺激してくれる。まだやれる、と理解した後でコーヒーを一旦置く。 それとほぼ同時に事務室近くのキッチンで物音がして、金色の黒いリボンで止めた髪が垂れるようにそれだけがソニカとユーノとアルフの目線に入っていた。 「ユーノぉ~朝は和食か、朝食。どっちがいいかなぁ~ ええへ、両方分の食材はちゃんと用意してあるから大丈夫だよ?」 ぴょん、という擬音が聞こえてくるかのようにキッチンから出てくる女性。 黒の地に可愛いデフォルメブタさんをあしらったエプロンに身を包みつつ、その後ろは黒のネグリジェという、ここに三人以外がいても、目も当てられないような姿をした……フェイト・T・ハラオウンだった。 ――――――――――――――― 事件があった日の夜である。フェイトがユーノのいる無限書庫の自室に来たのは。 通い妻ならぬ、通い恋人執務官扱い、というか事実それな彼女はそのまま一晩ユーノに抱きついて(ユーノ曰く悪魔の囁きに耐えて)そのまま、朝抱きつくままのフェイトと一緒に無限書庫に来ていたのだった。 「……同じ人には見えない」 「えっ?なんのことですか、ソニカさん?ああ、このエプロンはユーノが選んでくれたんです♪」 朝食の準備を終えたフェイトがユーノの机の上に和食のセットを用意している中、ボソッとソニカは叫ぶ。止めておけ、というアルフの目線も気にせず。 というか、エプロンは聞いてないから、というツッコミを入れたかったが、生憎目の前の幸せムードばっちりの女性はいれさせてくれなかった。 新聞に写っている人とは、実は別人じゃないんだろうか。いや、こっちのが実はかのJS事件で死んだとかいうナンバーズのドゥーエさんなんじゃ、と疑い深い眼差しで見てみる。 もっとも、ナンバーズ・ドゥーエの能力は「特定した相手の理想の人間を完全にトレースできる」であって、変身できるわけではないのだが、よくある勘違いの一つである。 「……ねえぇ、アルフちゃん。本当にこれがこの新聞に写っているあなたのご主人様なわけ?」 「そういわれると困るんだけどねぇ……間違いなく、ここにいるのが私のご主人様のフェイトだよ」 「……なら、こっちの写真の方が間違ってるのね、きっと」 間違いないわ、と自己完結をしてしまうソニカ。自己逃避と言っても過言ではないだろう。 そんななか、唯一落ち着いていたのが、ユーノなわけで。 ……夕刊の第一報を見たときには、今日の夕食を一緒にする約束は無理そうだなぁ、と思っていたのだが、まさかフェイトがこれまで早急な対策が出来たことが『一緒に食事して一緒にいたいから』だとは誰も思うまい、と心に確信の二文字を持って言えた。 一般的なフェイトといえば、もっと凛々しくて誰とも分け隔てなく接する聖人君主みたいなイメージがあるのだが。 「こ、このエプロンはソニカさんでもあげませんよ!ユーノに選んでもらったんですから!」 「いや、私は別にそんなエプロン要りませんから! というか、バカップルはさっさとバカップルらしく二人でいちゃいちゃしててください! 他人を巻き込まれると、こっちまで困ります!朝からなにが好きで砂糖無しのブラックコーヒーを飲んでいると思っているんです!シュガーは二人だけの愛情だけにしてくださいっ! というか、脳内で勝手に妄想するのヤメッ!この、妄想執務官!」 「あはは……朝からここは本当に元気だよ。フェイトもソニカも」 ここにいるフェイトはどうみても、その聖人君主とはかけ離れていた。 エプロン一つに嫉妬しているし、まるで嫉妬しているような、いや、あれは嫉妬か。フェイトの嫉妬なんて珍しい。そんなことをユーノが思えるぐらいに。 「はぁ……確かに、ソニカさんの言うとおりかもね」 「……? どうかしたの?その、私……朝食何かユーノの気に障るところでもあった、かな?」 自分の席に戻ってフェイトの用意した食事でも取ろうとしたところで、フェイトが不安そうにそう訊ねる。 そういわれると……こっちも困ってしまうんだけどなぁ、とユーノも苦笑する。 どっちも同じフェイトなのに、こうも違うとは。 「ううん。ただ、フェイトがカワイイなぁ、って思っただけ」 「えっ?そ、そんなこと言われると何も言えないよ……もうっ!」 途端に真っ赤な顔をするフェイト。なんだか日常ではないような、でも日常。 今までの日常が崩壊してしまった後の、今の日常。 ゆっくりとフェイトが用意した朝食を食べ始める。和食というのはミッドチルダにはない。地球の日本の食事を差す言葉だ。ご飯をお箸で取るのだが、なかなかユーノはこれが難しい。 隣で一緒に朝食を食べているフェイトをチラッとみて……というか、そこはソニカさんの席じゃなかったっけ、といいたい衝動をユーノは抑えつつ。 「ぱくっと……ど、どうしたの。た、食べにくいのかな、ユーノ?」 「あっ、うん。日本食って、どうにもこのお箸を使うのが苦手で……」 「ミッドチルダにお箸の文化は原則ないですからねぇ……あー、ブラックコーヒーが甘い」 席から立って、カップのコーヒーを持ちながら、ソニカがボサっと囁く。フェイトに席を取られたことはどうでもいいのか、単純にブラックコーヒーを飲んでいた。 ブラックコーヒーが甘いってどういう表現ですか、とユーノがツッコミを入れるよりも前に。 「じゃ、じゃあ!私が食べさせてあげるよ!」 「あ、ありがとって……えっ、えええっっっ!?!?」 「……このコーヒーも甘すぎるわね……今度はカカオ100%のチョコでも混ぜようかしら」 やけにツッコミの激しいソニカだった。一般の代弁者ともいう。 ど、どういうことという言葉を返すまもなく、フェイトはお箸で卵焼きを挟むと、ユーノの口に持っていき。 「あ、あーん、だよユーノ♪」 ネグリジェとエプロンはもちろんさっきのままである。そんな状態でそれは卑怯だ、とユーノは心から叫びたかった。しかし、声が出ているのはフェイトか、それを見てもっと苦いものを探しているソニカぐらいのものだった。 頼みの綱のアルフはどこか、とユーノはさがすが…… 「ユーノ。助けてやりたいけど、フェイトは私のご主人様なんだ、うん」 あっけなく最後の綱も切れました、とアルフの対応にユーノの表情は諦めに変わっていた。 時間はもう午前9時。ここにも徐々に無限書庫の職員が集まっており、大半は慣れている様子で、一部は何が起きたとばかりにその光景を眺めていた。 誰もかれも、昨日の出来事を知っているだけに、余計に呆れていたり、あるいは驚愕しているのかもしれない。 ――フェイト執務官、その姿で朝からなにやっているんですか、と。 仕方ない。このままの状況を続けるほうが危険だ、と判断したのか、意を決してユーノも口をあけた。 「あ、あーん……(真っ赤)」 「えへへ。今度はこっちを、あーん♪」 「あんっ。うん、美味しいよ、フェイト」 「ユーノに褒めてもらっちゃったぁ……えへへぇ……」 甘い。甘い、甘い、甘い。 さっきまで、フェイトとユーノの光景に唖然していた職員ですら、甘さに逃げ始める。最初からこういう二人を知っていた人たちはほぼ完全退避。退避できないソニカ副司書長とアルフはというと。 「これがこの前地球で売ってた、カカオ99%のチョコなんだよ。凄いだろ!」 「あー凄い。本当にここまでカカオを入れたチョコがあるのねぇ…… これぐらいの苦さがないとやっていけないわよね」 甘さと日夜戦う、無限書庫の戦士がそこにはいたという。 ――――――――――――――― そもそも、ユーノがそれに気づいたのは偶然の産物だった。 いつも、執務官になる勉強をしていたフェイト。なのはと一緒にいる彼女、そして家族と一緒にいる彼女。 その、すべてが何処か歪に見えたのは。 それが顕著になったのは、あるいはJS事件の後ごろだっただろうか。とある事件の資料請求に来たフェイトがやけに状態が不安定に見えた。 体調が悪いのなら、少し寝ていけばいいよ、と言ったところまでは、特に問題ないはずだった。 ところが、その返しが……ないまま、彼女が倒れなければ。 無理をしすぎている、という話ではない。もともと、彼女の性格自体が無茶だった。 起きたフェイトはすぐに仕事に戻ろうとした。それを強引に押しとめて、ゆっくりと話を聞いて。 『……JS事件も終わって、なんだかやることが無くなっちゃった気がして…… 今までもそんな空白感っていうのはあって……自分が何でいるんだろうって思うと、もう体がぜんぜんで……』 本当に大丈夫なのだろうか、と一瞬無限書庫で無茶のしすぎだった過去の自分が脳裏をよぎった。 話を聞けば聞くほど、彼女は何も休めていないと思えた。 ――いつもあるべき自分であろうとしたの。 それは誰だってしようと思う行動だ。同時にそれは公私の区別をつけるということ。公のときの行動と、私的な行動との差。 その言葉にユーノは特に不自然さは思えなかった。誰だってそうありたいとある自分がいるのだから。 だから、なのはと一緒にいる彼女はリラックスできている、と思い違いをしていた。 『なのはと一緒にいるのは好きだよ?でも……なのはの前でいる自分を作るのももうイヤ……』 彼女に、フェイトにとって、なのはと一緒にいることも、家族と一緒にいることですら、偽りを多少なりしなければいけなくなっていたのだから。 本音の自分を出せない。本当の自分を出せない。いつだって、我侭も言わず、ただその仲だけを大切にしようとしていた彼女を自分はあの事件を通して知っていたはずなのに。 その日、結局ユーノはフェイトを抱きしめながら一緒に寝てあげることしかできなかった。 「……それから、か」 数日ごとにフェイトがユーノのいるところにやってきては泣くようになったのは。 同時に、一緒に過ごすようにもなったのは。恋人のように。 特に何かあったわけでない日でも、それは突然なのだ。突然自分に飛び込んできて泣いて。 自分でストレスを発散してくれるなら、それで良いと思えた。むしろ、自分を頼ってくれるフェイトに嬉しい自分もいた。それにユーノは気づいていたから、自己嫌悪もあった。でも、本音は、確かにそれだった。 今では、見ての通りの関係になっていた。周りは恋人だと思っているようだけど。 いや、自分もフェイトも。そう願っていて。 「ユーノ……ごめんね。こんな風に抱きついちゃって……てへへ……」 無限書庫司書長執務室。誰も入らないその部屋でユーノは仕事をしながら、フェイトと一緒に過ごしていた。 一緒にいないと……安心できない。 ……日々、その必要量は大きくなっているような気がする。 そして一瞬、このフェイトが“アリシア”なんじゃないかと思って、その考えを塗りつぶす。それは彼女に失礼なことだったから。 過度なストレスからの逃避……というのは単純だ。 ただ、これはそういうものではなくて。 「でも……私、ユーノがいないと、その……」 「……依存症、かな?」 「えっ……?」 管理局情報部へ回す書類へのサインをしながらユーノは呟く。 そんな日々を過ごしているうちに、自分もフェイトを求めているようになっていた。一般的にこれを恋をしている、とか恋愛だと、そういう表現をするのが正しいのかもしれない。 でも、何か違うと思えた。これはまるで……依存症。 「依存症。それがないともう生きていけないっていうか、そんなもの。 薬物依存症とか、アルコール依存症とかあるけど……僕はいつの間にかフェイト依存症みたいだ」 「なら、私はユーノ依存症だね ……もう、ユーノがいないと私は、私でいられないもん……」 ぎゅっとユーノの手ではなく、体に突然フェイトが抱きつく。 それを驚いた様子で、どうしたのかと見つめるユーノ。フェイトの目は……焦点すら、覚束ない。 「あの日、ユーノに抱きついて。全部話して、それで泣いたらとってもすっきりしたんだよ。 でも、その日からユーノがいないと不安になっちゃって……ユーノ、とっても暖かい、よ ユーノの匂い大好きぃ……」 よく、依存症は逃避の結果だ、という人がいる。 それは間違っていないのかもしれない。でも、それが過去の、もうどうしようもないことだったら? 依存している。それは人間誰しもよくあることで。 ……そう、両親がいない。僕も、それは同じ。 家族がいない。誰にも甘えることができなかった僕や彼女。その表現方法を知らないでいたことが……いけないというなら、どうすればいい。どうすれば、それを治せる? 「僕も、フェイトがいないと今じゃダメみたいだ……大好きだよ、フェイト……」 もう、体が彼女がいないと、落ち着かない。 ある程度一緒にいないでいると、集中すらできない。彼女は甘い……麻薬のようで。 依存症。それは……いつの間にか、周りの人まで巻き込んで……依存の渦を回し始める。刺激を求めて欲求のままに……それはイケナイこと? それとも……大切なこと? その答えは……きっと、出てこないかもしれない。 ――――――――――――――― 「ふぅ……まったく、ユーノはもう少し程度を知りなさいっていうかねぇ…… フェイトちゃんもだけど、処方箋もちゃんと取っているんだから、それじゃあ病気治らないわよ?」 午前10時。時空管理局無限書庫事務休憩室。 ユーノとフェイトは、ソニカに手渡された薬をゴクッと緑茶で流し込む。同時にだらしなく目線を互いに向けた後で、ソニカへと戻した。 そう、確かに「3ヶ月前」までは二人の関係は、そんな依存症を引き起こしていた。 共依存……“相手との関係性に過剰に依存し、その人間関係に囚われている状態を指す”というそれに。 最初に気づいたソニカが、ワインと言って睡眠薬を飲ませた上で、二人を強制的に精神病院送りにして(一般的には体調不良による長期休暇扱いで)徹底的に精神治療と薬物治療をしていたのだ。 地球においては、未だにその原因が分からない病気ではあるものの……さすが、ミッドチルダ。この手の精神病においても技術は進んでいるし。無限書庫の資料も役に立った。 ソニカが早期に気づき病院にぶち込んだことで今では、殆ど治療済みなのだが。 「結局、残ったのは互いの恋愛感情だけと……あれで、あれであの甘さなのねっ!?」 「ソニカさん、もうちょっと落ち着いたらどうですか」 「3ヶ月前には、仕事場でことに及んでいた人がいうことじゃないですね」 「うぅぅ……」 思わず、大声で叫ぶソニカ副司書長だった。アルフも横で「なにをやっているんだい、あんたたちは」と呆れた表情。こっちはその話は初耳だったらしい。フェイトとのリンクもほとんど今ではきっているアルフだからこそ、それを知らないでいられたというべきかもしれない。 そんなフェイトの精神状態がアルフに入ってきて、正気でいられたかどうか。怪しいところだ。 「ま、まぁ。ソニカもそんなこといわないでさ、お陰で二人ともほぼ完治したことなわけなんだからさぁ!」 「その間、無限書庫とクラウディアが地獄だったのは言うまでもないがな!」 突然声を上げてその部屋に入るツンツンな制服を着た男性は……クロノ・ハラオウンだった。 お土産だ、とばかりに翠屋のレアチーズケーキを近くの円卓において話しに加わる。 「まったく、この副司書長を問い詰めて、お前らが精神病院行きになったと聞いたときは 本当にびっくりするだけで死ぬかと思ったぞ……頼むから、驚かせるのは今回だけにしてくれ」 「あはは……お兄ちゃん、ごめんなさい」 「これからは気をつけることにするよ。本当に」 ここで何か言うこともできないと悟ったのか、あっさり二人とも頭を下げる。そういわれると、クロノもこれ以上文句のつけようがなかった。 愚痴のままに話だけを続ける。 「こっちが死ぬかと思ったからな、今回ばかりは…… フェイト。これでも、一応君の家族のつもりだ。心配事や悩み事があるなら、ちゃんと、相談してくれ」 「分かってるよ、クロノお兄ちゃん。これからはちゃんとそうするよ……この事件でどれくらい心配してくれたのかも、分かったし」 「うぅぅ……」 心配のしすぎて倒れて、エイミィを泣かせるほどしてしまったクロノが意地悪に見る妹の眼差しに言葉を失う。 なんというか、気恥ずかしい以上に……久しぶりにみた、妹の笑顔に安心の恥ずかしさも混ざる。 もっとも、その心配の…… 「半分はお前だがな、ユーノ!」 「イタッ!叩くって、なんで僕?ぼく、君をお兄さんとよぶような地位にはいない自信があるんだけど!?」 「ええいぃ!お前まで一緒に依存症になるやつがいるか! そもそも、最初の時点で僕のところにも伝えるなりしろ! ……これでも、一応、親友のつもりだからな」 「と、半分ぐらいツンデレな提督さんでした」 「纏めるのはよしてくれ、そこの副司書長」 顔を真っ赤にしてクロノがソニカに静止の声をかける。まあ、それぐらいでソニカとアルフが止まるはずもない。 「そもそも、共依存のケースでは、安易に相談したりと特別な関係を広げるのは悪い連鎖の種にしかならないんですけどね。まあ、今回は私が気づいてよかったということで」 「まあ、そうなるんだよねぇ……そういえば、あのままだったらどうなったんだい?」 素朴な疑問だったのか、はたまたずっと気になっていたのか、アルフが疑問を投げかけると ユーノやフェイトにクロノも、ずっとソニカの方を見つめる。これでも、無限書庫主任アーキビスト。知識量だけは抱負である。 「……自殺していたかもね。依存症はさらに強い刺激を欲しがる。だから、あの状態で推移していれば……いつの日にか、寂しさで自殺もありえたんじゃない?」 「……本当に、ごめんなさい。ユーノも、みんなも」 途端に静かに重い空気になった休憩室。フェイトは空気が悪そうにそれだけをポツリ、という。 そんなフェイトに横にいたユーノがそっと囁く。 「フェイト。そういうところが、君の悪いところだよ。自分だけの責任だって思うところがね。別に気にしなくても、助かったんだからよかったと思えばいいんだよ」 「……ありがと、ユーノ」 ふっと、手を繋いで。感謝の意を伝える。それだけで二人とも顔や頬は赤く染まった。 呆れたような、見ていられないような表情でクロノとソニカは目線をそらす。 「あれで、依存症じゃないのか……あいつ等は」 「あれが単純に初心なバカップルです。朝も、一緒に食事してあーんしてました。 まあ、まだ完全に直っていないというだけで、あとは薬物治療でどうにかするしかないので、なんともいえません」 「……兄として、頭が痛いんだが」 ソニカが頭痛薬です、と手元に持っていた薬を差し出すと、クロノは手元の緑茶とともに口にそっと飲み込む。少しは効果があるだろう、きっと。 ため息ぐらいしかでないが、とりあえず二人ともちゃんと職場復帰して、フェイトは復帰一ヶ月で大仕事もしたことで殆ど問題ないだろう、とクロノも安心。 今の状況でだいたい、安心できるというものだ。 「そういえば、フェイト。さっき、クロノが言ってたことなんだけどさぁ?」 「うん、どうかしたアルフ?」 と……アルフが、何かに気づいたらしく、疑問をそっとフェイトにふりかけた。 それが爆弾発言になるとも知らずに。 「ユーノがフェイトと結婚したら、ユーノの結局、義兄さんになるんじゃないのかい?」 「「!?!?」」 プッとフェイトの顔から何からすべて真っ赤になる。小言で「け、け、け……」と呟き始める、正直に正しく異常だった。思わずクロノもユーノも飲んでいた緑茶を吹く。 「な、な……って、そもそも、僕はフェイトとの婚約なんて許していないからな!」 「は、話が飛躍しすぎだよ、クロノ!そもそも、なんで結婚してもお前を兄さんと呼ばないといけないんだ!」 「け、け、結婚……ユーノと……」 バカとバカとそれからバカ。 まったく、落ち着きはないのかしら、というソニカの目線だけが訴える様子で、今日もいつもどおりに無限書庫の毎日は過ぎていこうとしていた。 ただ、一つ違うことといえば。 「ユーノ……依存でもなんでもなく、私はユーノのこと、好きだから」 「……僕もかな?その……フェイトのこと、好きだと思ってるよ」 この初心なバカップルの日常が、そこに溶け込んだことだけ。 そんな日常で。ふと、フェイトが誰にも分からないようにニヤッと囁いた。 「……治っている、わけないじゃない……今でも私は……あなただけのもの…… 一緒にいてくれないと死んじゃうのよ……ユーノ……あなたに私は酔いしれて……もう、やめられないから」 後書き というわけでシリアスとギャグのリミックスな「依存症」でした。 フェイトって、基本的に依存症の感じがあると思うんですよね。いつも、自分らしい自分を装っているというか。 両親がいない。そう言う意味では、ユーノも同じ。実ははやても同じですね。なのはも幼年期の複雑な事情という意味では同じ。 リリカルなのはって精神病患者の吹き溜まりなんじゃないかと(ぁ キャロもエリオも、ティアナにスバルまで……うわぁ……一歩間違えれば、全員奈落の底に落ちていきそうです。 実は、最初はソニカさんの出番がないまま、奈落の底に落ちるフェイトとユーノを想定していたのですが、後味悪すぎるので、急遽ソニカさんに助けてもらうことにしました。 今回はそのためだけの副司書長です。本当のところw アルフとは違う性格の、だけどユーノのことを心配するっていうイメージのオリキャラだけど、出るたびに変わるね、この人の性格w ソニカという名前の偶像なので、そこら辺は(・ε・)キニシナイ! 実際に、共依存という状態も存在します。一般的にこういう依存症患者に素人は手を出してはいけません。ちゃんと精神科に行って、医師からちゃんとした処置をしてもらいましょう。下手にどうにかしようとすると、その人まで依存症に、今回はユーノのようになります。 ちなみに後日に最後の一文追加。いや、怖いね、フェイトさんw 最後の一文で一気に反転させてみた。読みたくない人のために反転しないと読めないようにしております。 反転の意味が分からない方は、やけに空白の多いところでドラック&ドロップしてみてください^^ どっちがよいかはその人次第w とまあ、では、コメント返信w > 白ぅ神さんへ 毎回感想ありがとうです^^ 色々と書いていても、どうしても上手くいかないんですよねー。困ったもんだw 感想を聞いて、元気づけてもらって、何よりありがとう。ただ、それだけです。 >霄猫ゆきさんへ なんとか、機動六課勤務日誌Ⅱ手に入りましたー。ありがとうございます。 それにしても、なんですね。自分のSSがあることが恥ずかしい気分ですね、こういうのを読むとw >テルスさんへ ヴィヴィオの書き方って難しいですね、本当に^^ 今回はまったく出なかったけど、これぐらいばっさり登場キャラ制約しないとかけないね、うん!w アイコンの方はがんばってくださいー^^ >俊さんへ こんばんわー。ありがとうございます。生憎、アンケートはなのはという結果でしたが 新年最初のSSはフェイトさんでした。どうでしょう。こういう二人も? せっかくなので、クロノ提督もご登場。理由の半分ぐらいがクロノを、といっていた俊さんのため^^ ほかにも、Web拍手等でコメントをありがとうございました。がんばって更新していきたいと思っておりますので! Web拍手一つで作者のやる気が大きく変わります^^面白かったら、ぜひ拍手をしてくれると嬉しいかなー?