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大浴場とは別に、ここには大きな露天風呂が設置されている。 最初はエリオ君と一緒に行こう、と思っていたユーノだったが、クロノに「妹のことで重要な話がある」とつかまったエリオとクロノは少し遅れる、と言ってまだ大浴場。フェイトのことで話すクロノは例にもれずシスコンの気があるのでどうなのやら、と思うところだ。 ちなみにヴァイスさんに、グリフィスさんと人型形態になって入ってきたザフィーラは、三人揃ってのんびりと大浴場のサウナで我慢比べ。以外とグリフィスが余裕の笑みを浮かべてたところがユーノには予想外だったが。
というわけで、今、広い広い露天風呂には自分ひとり。
「うーーんっ!気持ちいいかなぁ……」
空は赤く染まっていて、時間的には日の入りの時間帯。 夕日は綺麗に西に沈んで、露天風呂から見るその風景は一景と言えるほどの美しさ。 絶景、という類は、無限書庫に詰めている関係上、ほとんど見ないだけにその情景はユーノにも心に来るものがあるようで。
「夕日かぁ。確かに絶景、って言うのは見ると心が癒されるのかな?」
そういいつつも、考えていることは別で。 夢、10年前の話。今でも考えていることは間違いなのだろうか。 そもそも、それを今も相手が覚えている保障はどこにも無い。 第一に彼女がチョコを作っているならここには……
「何、考えとるん?ユーノ君」
「別に。ちょっと昔のことをね」
横で答える柔らかい声の癖を持った声から問われたことをさっと答える。 声を掛けられると答えてしまうのはあくまでも、無限書庫勤務のために身についてしまった技能の一つなのだが。 疑いも無く、ほぼそれは条件反射と言っても違いないほどのものだ。 声の相手は多少緊張してこわばった感じで、そのまま質問を続ける。
「ふーん。昔のことやねぇ……どれくらい昔?」
「ざっと10年ほど……」
そこまで言ってのんびりとしていたユーノの手に「誰かの」手が当たる。 当たって始めて、やっとユーノの脳は今、この瞬間の事情を高速回転をし始めて、その次元世界有数の知能が動き出す。
――ヴァイスさんたち?
いや違う。彼らがこんな女性みたいな声を出せれるはずがない。
――じゃ、エリオ君?
そんなわけがない。だいたい、エリオ君はそんなからかうような行動は取らない良い子だ。
――となるとクロノ?
それこそジョークも大概にしろだ。 あいつは声変わりしてるし、声変わり前の声はむしろエリオ君のパートナーの方の声に似てるぞ。
若干余裕があるのではないか、と自分で自分の意見にツッコミまでいれるユーノだったが 結局、最後はそれを認めざるえなかった。 独特のイントネーション。そして声の高さといい。何より……
「って、なんではやてがここにいるのさ!?」
「なんでって、この露天風呂は混浴やろ?」
「……はい?」
そういわれてユーノがよーく露天風呂を見直す。 広い広い。そりゃ広いのも当たり前だ。隣接する女湯の場所まで続いているのだから。 ここにきてはやてがシグナムに聞いていたこと。それはここのお風呂についてだったのだ。
「……本当だ」
中途半端に混浴をしている辺りが、不安定に和洋折衷の分からないエントランスホールだったここらしいというか。変に納得してしまうあたりが落ち着いているのか、と思いきや、むしろユーノは緊張していた。 ここになぜ彼女が、なんでこんなに近くに。 今まで、彼女のことを考えていただけに、それは本当に困惑と緊張を彼に無償提供していた。
もっとも、緊張しているのははやても一緒だった。
温泉にきたからには露天風呂や、と行こうとしたのは良いものの、今度はリインが双子に捕まって移動不可能。リンディとメガーヌは、シグナムにエイミィと一緒に井戸端会議のように話始めて……
自分はまだおばさんやないで!、と心の中で大声で叫んでそこを後にしたはやてだったわけだが 男女混浴の露天風呂に誰かいないか、と神経を走らせて……見つけたのは彼だった。
後は思いっきり恥ずかしいながらも、近寄ってからかう予定が……ユーノの口から出た言葉は からかう、という行為そのものを邪魔するような言葉だった。
「10年前、かぁ……?」
「え、そ、その……な、なんでもないから!はやて!」
「なんでもない、なら言ってくれてもええんとちゃうか?」
「そ、それは……」
そこで口が止まるユーノ。 何もいえないまま、はやても言わないまま、時間が少しの時を経たせて。 はやての口はゆっくりと動く。
「10年前って言えば、そ、その……ユーノ君と約束、した覚えがあるんよ? そ、そのユーノ君が覚えとるか分からないやけど」
「はや、て?」
―――――
その日。10年前の、闇の書事件が終わってから始めての2月のバレンタインデーの数日前。 はやてとユーノは偶々二人で時空管理局の休憩室にいた。
ユーノは無限書庫勤務を始めようとしていて。はやてははやてで足のことを含めてやっと第一歩を歩んでいたときだった。 そんな中で二人は、高町なのは、という人物をはさまない限り、それと言った接点もない間柄ながらも それなりに話して、それなりに友達、と言える関係だった。
そして、バレンタインデーの数日前、はやてがバレンタインデーの話を振るとユーノは目をパチクリして一言。
「僕はもてないからね。もらえないと思うな~」
「ユーノ君、たいそう自分を謙遜なさるなー?」
「謙遜じゃなくて、事実だと思うんだけど」
そういう彼の顔は思いっきり真面目で、ふざけている類が見当たらないユーノ。 第一に、はやての知るユーノはそういった冗談は言わない類の人間だ。
なんという、と言った表情でユーノの本当にもらえないと思っている無関心さに呆れを通り越してただ何も言えない。 そういえば、近頃は仕事ばかりでまともになのはちゃんたちとも会ってない、って言ってたなぁーと なのはたちとの会話を思い出す。 自分と同じ年の子。それなのに、友達とも家族とも一緒にいないで仕事だけは山積の無限書庫での仕事。
寂しいやろし、笑いの一つもあらへんやろーなぁ……、とこのときははやても子供だった。 それでもほかの人がその寂しさすら気づいていない中で、はやてはどうにかこの無関心バカをどうにかせーへんと、と思案に耽り、そして一つの結論を出す。 それはそれで思いっきり問題ある結論で。
「なら、私が……ユーノ君がチョコを何ももらわへんかったらあげるっていうのはどーや?」
「ぼ、僕が?はやてから貰うの?それは、はやては困らないの?」
「なんで困るんや?別にほかにあげる人もおらへんし。それに誰からも貰わなかったらってだけやで? だいじょーぶだいじょーぶ。ユーノ君はちゃんともらえるって! 例えもらえんへんでも、私があげたるから、大船に乗ったつもりでバレンタインデーを楽しみにしとってなぁ~」
「楽しみかぁ……君から貰うだけだと思うけどね」
「だから……まあええけど」
9歳の二人には、それを思いを受け渡し、渡される、という意味で捉えてはいなかった。 単にユーノも自分をはやてが惨めに見えたのかな、と思っただけで。 はやても、またただ寂しそうなユーノ君が笑えれば、と思っただけ。
それが……10年前の、約束。
はやてが声を細めて言った話。それを聞いたユーノは一瞬、頭が真っ白になって。
対するはやてもいつもの彼女らしくない、話に勢いも纏まりも何も無い。ただ、慌てたような素振りばかりが目立つ言葉。 ユーノもそれは同じだ。広い露天風呂にはやてが押す形で密接した形で入っていて。
「そ、その約束ってチョコの話?」
「!?……そ、そやね。それで、今年はどーなん?毎年毎年、私が勝ってばかりやと面白くないとゆーか」
「えっと、その……今年はゼロかな?」
「……ほんまに?」
ユーノがただ、事実だけをぽつっと口にすると呆然したような、呆気に取られたはやてが驚きを含めて聞き返す。でも、ユーノは変わらず首を前後に振った。
ゼロ、それが意味するところをはやては思い浮かべて。 今さっき、大浴場で宣言したこともあわせて浮かんでくると……
――わ、私……!?
いつの日になるか、とそう思っていたそれが『今日』だと分かって体中の血液が沸騰するかと思うほど熱くなる。 今までただあげるだけ、にここまで胸に来る何かを感じたことは無かった。
この思いはやっぱり……
「司書さんたちからはチョコ以外のものを今度貰う予定で、ほかの人たちからも貰わないままここに来ちゃったし。それになのはたちはチョコ今作り終えたところぐらいで、それからここまで来るとなると、もう時間が無いと思う。だから、僕は今日はゼロ。なのかな?まだ、その……分からない、けどさ」
「そ、そうなんかぁ。始めて、私が負けってことになるんや……ろか?」
ぎゅっ、とはやては手を強く握る。 自分が負け、それはつまり……
「ふふっ、別に負けたからってそこまで驚いたような顔しなくても」
「そ、そんなわけやないわ!負けやから、ユーノ君にチョコ渡さへんと思っただけで……!?」
口が滑った、というのはこういうときのことをいう……そう思うほど二人とも言った方も聞いたほうも 恥ずかしそうに互いに背中をむけてしまう。
背中と背中が互いに当たり合って、それはそれでさらに二人とも恥ずかしいような。 でも、同時に相手がいる、それを感じることも出来て。
はやては気を落ち着かせるためにゆっくりと日が沈む空を見上げる。 日が沈むと同時に月も出ていて。その光が自分を落ち着かせてくれた。大丈夫、問題ないんよ……。と。 落ち着いて、残ったのは後ろの人の温かみ。 この人は、この人の温かみは……自分が今まで突っかかっていた「恋してしまった」は間違いないと確信させる。
魔法は魔力だとすれば、自分が長い間続けてきた「約束」もまた魔性を帯びていたのか。 それとも、それとは関係無く、自分を助けてくれた彼が恋しいのか。
どっちでもいい。そんな気がした。
「ユーノ君。夕食も終わって、ちゃんと12時になるまでが実際の勝負やで?」
「そんなに賭けに負けるのがいやなの?」
はやてがきっちりと断言する。それに心細そうなでユーノが返しても返事は変わらず。 二人とも、意固地になっているのだった。しかも、はやてがそう返したとなると、ユーノがそれを破ることはまずしない。
「そっか、なら12時まで待とうかな?」
「そやそや。でも、その前に、そのちょっとええか?」
「う、うん。何、はやて?」
「こっち見てくれる?」
背中を互いに重ねて反対を向いていて二人が向きを変えなおして二人は正面を向き合う。 はやては変わらず恥ずかしそうに、ユーノは……すでに目の置き場が無い様子で。
――む、胸が……
フェイトやなのはに比べればずいぶん小ぶりな、でも十分なサイズの胸を強調させるかのようにはやてがそこにはいた。まあ、いるのは当たり前なのだが。
恥ずかしいのははやても同じであって。 でも、しようとしていることはもっと恥ずかしいことで。 ええい、もうどうにでもなればええ!?、と考えることを止めたはやてはユーノへ向かって抱きつきを敢行した。
専守防衛を是とする国風に言えば 状況、胸、の始まりである。
――――――――――
「な、なんであの時いきなり抱きついてきたのさ……はやて」
「いや、その……気分がハイやったことと、ちょっぴり自分の愛情表現の劇的効果?」
二人揃って横に並んで密着する、と言っても過言ではないほど近くで座っていた。 ちなみにそういわれてどんな愛情ですか、と聞かないところがユーノらしい。 温泉でユーノに突如はやてが抱きついて、大声を出し、それにあわせてクロノたちとシグナムたちが同時に露天風呂に入ってきて。結果は見ての通り。
結局、抱きついた理由ははやてがからかったことになってはいたが。
はやての愛情表現は部下の胸を揉むぐらいのものらしい とユーノも聞いていたのではやてがそういえば納得してしまったところもある。
実情はまた別なのだが。
それはさてと、今二人は別に二人だけでいるわけではない。 もっと言えば、すでにお風呂は上がっていて、二人とも服はちゃんと着ている。
ここは旅館の中宴会所。お風呂の後、一行は食事の為にそこに集まっていた。 ところが、だ。比較的状況が状況だっただけに遅れた二人にはその席しか空いてなくて、結果、こうなったわけである。
で、宴会開始30分。状況は悪化の一途をたどっていた、といえばいいのだろうか。
「おおっ!シグナム姐さん飲みっぷりがいいねぇ~!」
「ふっ、騎士にとってこれぐらいのビールの一つは二つは飲めないことは無い。 ヴァイスの方ももっとドンドン飲め。ベルカにはお祝い事にビールは欠かせないものとしているところもあるぐらいだ」
とりあえず、私の世界のドイツ連邦共和国はビール消費量高いっちゅうのはよく聞くけど それは私も知らへんで、とはやてが心の中で密やかにビールをジョッキで飲んでいるシグナムにツッコミをいれておく。 ちなみに一人当たりのビール消費量世界一はチェコだそうで。さすが音楽の都。
まあ、そんな主の思いは知らず、ぐいぐいと飲み続け、薦め続けるシグナム。 彼女の意外な一面だ。
その横ではというと。
「あら、大変なのね。 私も昔からクイントとゲンヤさんの仲を保ったり、隊長の補佐をしたりと気苦労たえなかったから分かるかな?」
「ええ、そうなんですよ…… まったく、前線部隊の隊長がたはもうちょっと法を守る局員らしく行動して欲しいんです。 ただでさえ、うちの部隊は色々とうるさいところも多いわけで、部隊長も中々話を聞いてくれなくて……」
ワインを片手に熱く涙を浮かべて語るのはグリフィスで、その話しを天然なのか普通に流して聞いているメガーヌ。しかし、私が話を聞かないとはどーゆーことや、とはやてが思ったのは言うまでもなさそうである。
そんな横ではというとまた別に一組が……
「エリオ~これ、美味しいですよー♪」
「ほにゃ?、ううんーおいしー!」
明らかに発語がおかしいエリオ。その前には徳利が一本、丸々殻になっていた。 性格が変わるどころか、性別すら変わったかのように声がまるで女の子なエリオがリインに抱きついて一緒に料理を食べている様はユーノから見ても圧巻されるというかなんと言うか。 でも、抱きつかれてもリインが驚いていないところを見るにリインもだいぶ飲んでいるようだ。
というか本来お酒は20から、なのだが………
――甘酒であれって、実際にどうなんだろ?
徳利に入っていたのは甘酒。あれであそこまで酔えるとなると相当の才能にも近い。
「ふふふ~リインはエリオともっと一緒にいたいです~!」
「僕もいたいのー!リイン温かいー!」
「なんや、ありゃ……」
「僕に聞かないでよ、はやて」
お酒は抑制をなくす、というが、となるとエリオの本性はわがままを言う年相応のおと……かは別として子供なのだろうか。 エリオに一番近い存在であろうフェイトがここにいないのでなんとも言えないわけだが。
ユーノもはやても、こういう小さい宴会ではあまり騒がない方だ。 もっとも、はやては大規模(六課全員)では、音頭を取ったりしてだいぶ騒ぐほうなのだが。
しかも、自分たちの隣ではハラオウン夫妻+αが熱々に……
「はい~クロノ君、あーん♪」
「エイミィ、なんでそんなことして食べないといけないんだ……?」
「だって、結婚の後すぐに子供で、しかもクロノ君って中々帰ってこないし、こう夫婦のスキンシップしてないでしょう?」
「まあ、それはそうだが。ちょっとまてその子供の方はどうしたんだ?」
「うん?ちゃんと義母さんが見てくれてるよ?」
熱々に二人で食事をしているクロノとエイミィ。恥ずかしそうながらもしっかり「あーん」をしているクロノを見てしまうとさすがに見ているユーノとはやての方が恥ずかしくなるような感じだ。 まあ、夫婦なので当たり前と言えば当たり前なのだが、二人にはそれでも万年新婚夫婦のように見えるのだろう。 実際に結婚からすでに数年。未だに新婚気分バリバリなのは、高町家のご両親ぐらいにしてほしいものであろう。
一方で、未だに年の老化をまるで見受けられないリンディが二人の子供相手に嬉しそうに世話をしているところは「この子たちの母親です」と言われてもまったく疑う余地のないような雰囲気をかもし出していた。
むしろ、前より若く見えるのはきっと目の錯覚、とユーノも、そしてはやても自分に言いくるめるのだった。
そんな中で二人だけ、普通にしているユーノとはやては、むしろマイノリティ。 しかも、そのほかの全員が男女で話しているので、どこかに逃げることも出来ず。
「食事でもしようか、はやて……?」
「そ、そやなぁ……周りがこれだとあんまり調子がでーへんけど」
そういいながら、二人で前にある料理の食事を始める二人だった。 よく分からない魚料理を一口食べて、美味しいと、無限書庫で味に飢えぎみなユーノが久しぶりの美味しい食事に笑顔で食べて そんなユーノを見ながらも、確かに美味しい、と釣られて笑いながら食べる二人。 それは、親友、と言われるとなるほど納得、な雰囲気をかもし出していた。言われないと逆にあの関係が恋人なのか親友なのかはっきりしない、それが。
料理を食べて、酔いきってしまったエリオとリインを部屋まではやてと二人で運んで。 それから幾らか時間が過ぎて。
二人だけでいる時間、二人だけの時間。 エリオとリインは仲良く二人揃って一つの布団で寄り添うように寝ていたから、そこはユーノとはやてだけ。
部屋は寝室と別に和室が一部屋。寝室には布団が3つ敷いてある。 そんな和室においてあった腰掛けに座って他愛もない話をして。 ユーノは無限書庫のこの頃の話を。はやては六課の主に新人の話をして。それはそれで笑いあっていた、そんなときだった。
ゴーン、ゴーン、と鐘の音が聞こえてきたのは。
「鐘の音?」
「そういえば、この旅館。エントランスホールに大きな時計があったっけ。多分、それの音だと思うけど」
言われて見ればそんなものがあったようななかったような、とはやて。 鐘の音が9,10,11,12となって。そこで終わった。つまりは……
「14日終わってしもうたなぁ……」
「なんさ、それ。その残念そうな嬉しそうな言葉は」
ユーノがそういうほど慌てているようで、だけど何かを決めたような瞳をしていたはやて。 ただし、それはユーノも同じ。
二人とも、自分が言いたいこと。それを言うと決めたのだから。
相手を互いに見合って、笑いあう。いつものことだ。はやてにとってはユーノと、ユーノにとってははやてと、話すときのお決まりだった。 互いに笑いあうのは。それが二人のコミュニケーションの基本。
「嬉しいような、でも怖いような。そんな感じ、やね」
そう告げるニュアンスと声。その両方ははやての緊張と覚悟の度合い。 ――私はいう、自分が思っていることを。 目の前のユーノをじっくりともう一度見て。自分の鞄から一つの箱を取り出す。 今まで、毎年毎年作っては作っては結局渡さずに残っていた箱。
「ほな、約束どおり……私からの始めてのチョコやよ」
「うん。ありがとう。なんだか、不思議な気分だけど。はやてからチョコ貰うの初めてで。でも、いつ作ったの?」
「そな毎年ユーノ君がチョコもらっとるのが悪いんよ。それと作ったのは二日前の暇な時になぁ」
手元に出した箱を、ゆっくりとユーノの手元に渡す。 毎年毎年緊張して作っていたチョコ。今年は六課で隠れながら作ったために余計に緊張していたチョコ。 私の思いの結晶。
「そ、それでなぁ?ちょっと話があるんやけど……」
ピクリ、と一瞬だけ体に何かが走ったかのようにはやての言葉に反応するユーノ。 それに気づかずにはやてはゆっくりと近づいていく。
緊張はいよいよ臨界点も突破しそうだった。 ゆっくりと言の葉を連ねて。自分の思いを。相手に伝える。
大和撫子のように浴衣を着ているはやては、見るからに神秘的で。髪縛りのリボンも使ってない、それは新鮮さもあった。
「……その約束からもう10年。私たちもあの時のような思いのまま過ごせたわけやないし あのときみたいに毎日会う、なんてもうほとんどないに近いのが現実やぁ……」
「確かにでも、なのはは忙しくて会えないことも多いし、フェイトは仕事以外ではほとんど、かな。 二人とも会うときには会ってたし、なのはたちとはメールもしてるけど。 確かに、あのときみたいに毎日会えてるわけじゃない、かな」
――自分が好きだった女性。 ユーノが自覚した中で初恋は高町なのは、だったはずだった。 でも、重ねた時間と思いと記憶。10年の時は長くて。しかも、あの時のように絆を自覚できることもなく。
ユーノの、ストレートに、なのはから貰ったリボンを使わずにフラットにした髪は長くゆれる。
「そういう意味では、リインを生み出してから一番良く私的あっていたのは、はやて、なのかな?」
「……私も意図的に良く会うようにしとったから、ね」
「えっ?」
ポツリ、とはやての口から言の葉は出た。 その言葉の真価を継げるようにはやては続けた。透き通った心がまるで思いをそのまま通しているように。 言える、今なら言える。 そう思ったはやては……ゆっくり昔話をし始めた。
「とある女の子は、明らかに無理をしている男の子を見つけました。 仕事ばかりして、他人優先で、それだけならええけど、何より……彼を毎日支えてくれる家族がおらへんかった。それを知った女の子はなぁ、昔の自分を思い出して……その子は今でこそ家族がおるけど、昔は一人で、その子がどんな思いしとるかと考えて、出来る限り一緒に会えるようにしようと思ったんよ。でも……その子は一つだけ重要な間違いをしとった」
「間違い?」
「そや、その子……八神はやては、その男の子、ユーノ・スクライアのことを……好きになっても言い出せなかったことを…… あはは、バカなこといっとると私も思うんけどね。 でも、嘘やないんよ?私は……ユーノ君のこと、好きやから。友達とかそんな関係やなくて……男性として好きになってしまったから」
本当に私バカなこといっとるなぁ、と誤魔化して笑うはやて。 好きだ、とそれだけ言えば良いのに、何か言ったかと思ったら「なってしまった」なんてまた口に出して。 最悪な告白、はやてからでもそう思えた。でも、自分の手と手の中にあった思いをそのまま言ったことでもあった。
そんな笑って誤魔化そうとしているはやてを見て、ユーノは。 驚いてはいた。だけど、同時に目の前の彼女の精一杯の告白に驚いて。同時に答えないといけない。 自分の思いを言わないと、と。
「そう、なんだ……はやて……そのさ、バレンタインって別に女性からっていうのは日本だけ、らしいよね? はやての、その言ってくれたことのお返し、だけど」
自分の思いを言ったはやては達成感と同時に目の前の彼の言葉に注視した。 言の葉は渡しただけではなく、返されるもの。返事は怖い。だけど、はやては聞きたかった。彼の言葉が。彼の返事が。
返事をユーノがゆっくり言おうとして。 緊張のあまりにはやては目をつぶってしまった。怖くて。 だけど、怖くても、怖くても。現実を見なければ意味が無い。夢、なんかに入り浸り続けるのは終わりにしないといけない。 だから、ゆっくりと目をあけると……そこには。花束があった。
「これは……カーネーション?」
「……とある男の子は、大切な人を失ってしまった女の人を助けようと無茶をしてでもがんばった」
あっ、とはやてが、さっき自分が話した話に似た話をユーノが言いだして、何かを心に返されている感触にとらわれる。 今日、一緒にいて思ったこと。目の前の彼は弱くて強い。正反対な二つの言葉。だけど、それは間違ってない。 そして、それを感じさせるような、言の葉が硬く勢いあるものになっていて。
「もともと両親は知らない子で、一族に育てられた子だったその子は家族もいなくて。当然、孤独感に苛まれたことだってあった。 そのとき彼が好きだった子が事故を起こした、と聞いてさらに自分を追い詰めていった。 そんなときに、その子が前助けたといっていいのか、分からない女の子がよく自分のところに来ることに気づいた。 その子は毎回毎回仕事やら、私用やら言っては男の子をからかって元気にしてくれた。とっても嬉しくて。 そして……いつの間にか、彼も気づかないうちに彼には変化が起きていた」
「へん、か?」
変化、の意味を問うはやて。 だけど、その言の葉には勢いが無くて。
――彼が好きだった子、その言葉に該当する人を知っているから。
自分だって目の前の彼にその女性、高町なのはにその話題でからかったこともあったぐらい、知っていたことなのに。 やっぱり、だめかぁ……と悲しみが先になだれ込んでくるようで、だけど。 それも次の一言で、すべて止まった。
「そう、そうやって長い間その子と……八神はやてといて、男の子……ユーノ・スクライアも気持ちが変わったから。
多分、僕は君が好きなんだと思うんだ。今、はやてに言われて間違いない、と思うほどに。 ……とっても嬉しかったから」
その言葉を聞いて、言って。 互いに互いが驚きと、嬉しさと、愛しさを持って。 約束と冗談と一緒。ユーノの手元にあるチョコと、はやての手元にあるカーネーション。
互いに思ったのだ、微笑みをすべて君に、と。 そのときに、すべては結びつき始めたから。
「……良かった……私、とっても心配やったから…… 最初は単なるチョコレートの約束から始まったそれで、本当に思いが通じ合うなんて思えへんかったから……」
「僕も、かな。はやてがそんな風に思ってるとは思わなかったから。 君のことを好きに思うなんて、最初のチョコレートの約束の時には夢にも思わなかった……でも、今はここで、君のことがきっと好きだから」
目ににじむように涙を浮かるはやて。それを見て、よかった、と思えて、同時に堪らなくなるような感覚に苛まれるユーノ。 言の葉を重ねあった二人。 そして、二人の思いは一つになった。
「でも、なんで赤のカーネーション、なんや?」
二人の告白。 あまりにもすっきりと思いを言いあって。 その後は言葉も無しに、ただ二人は気持ちが、思いが結びついたことに実感をわかないまま、ただ嬉しくて嬉しくて。 さっきの抱きつきも、とはやてが本当の意味を口にしてユーノが顔をりんごのようにした以外は。 思いを通じ合わせて、証拠に……口と口を合わせることも、して。 それで時間は深夜も草木が眠る丑三つ時になり、やっと寝ることにした二人。
そうして、今は二人で布団の中。だけど、二つ引いてあったシングルの布団はダブルの一つ、に変わっていた。
二人で互いに顔をあわせて寝る。思いが通じ合ったからといってもいきなり過ぎるとは思った、が。 横で寄り添いあいから、抱き合いに変わっているエリオとリインを見てしまったら、それも大したことないように見えたらしい。
電気も消して二人で向かいあって寝ていた。 別に疚しいことは何も無い、普通に寝ているだけなのだが、それでも奥手な二人は思いっきり照れている様子で その矢先にはやてが言ったのは、先ほど貰った花。
「ああ、あれはカーネーションとも言うけど、実は別名があるんだよ」
「別名?」
「そう。カーネーション、別名はアンジャベル。アンジャベルっていう花には色々と花言葉があるんだ」
はやてからすれば、カーネーションと言えば母の日のプレゼント、というのが一般常識として定着していた。 花のプレゼントとして渡されたときには意味が分からず、告白されてからは意味がむしろ知りたくなった。
「母親への愛情とか、そういう意味もあるし、それは……母親を知らない僕にとって、はやてがリインを見ている表情は母親みたいだったからさ。でも、それだけじゃないんだよ?」
「それだけやないんか?」
「花言葉は『あなたを熱愛しています・熱烈な愛情・あなたの愛を信じる・貴女の恋を信じます』 最初の二つの意味で送るつもりで用意していたんだけどさ……あはは……」
自分の思いを伝えるつもりで用意した花が、まさか相手の告白を受けて、後の意味をも引っ張ることにはなるとはユーノも思って見なかったらしい。 それを聞いてとっても心が温まるような気分になったはやてが花言葉を小さく声に出して意味を確かめるようにする。
「それじゃあ、僕も聞いていい?」
「……ええよ」
小さい声で出る優しいイントネーションを奏でるはやての声。 浴衣のままで寝ているはやては、今度はちゃんと髪を縛って。ほとんど密着のレベルでユーノの隣にいた。 言葉に酔える、ならユーノは今にも酔いそうだった。同時にはやても、ユーノの一段の優しさがこもった言葉で。
「あの、チョコ。僕がもし一つでもチョコをもらっていたらどうするつもりだったの?」
「……渡せないバレンタインチョコは、ただのチョコ。そうやとは思わんかぁ?」
「えっ、そ、それはそうだろうけど」
それはそうなんだけど、それもどうなんだろう、とユーノは思う中 何かを語るかのような、しかも昔を思い出すかのようにはやては言葉を続ける。
「そのまんま。自分で食べてた、なぁ……前から」
「前から?まさか、今まで10年間も?」
「そうでなかったら、今年も用意しておらへん。まったく、ユーノ君が毎年毎年貰ってるから悪いんやからなぁ?」
「あはは、ごめんごめん。今年からは君以外からは貰わないから大丈夫だよ」
絶対やで?、と念を押して、だけど嬉しそうな表情で訴えるはやて。 そんな今の状況が楽しくて楽しくて楽しくて。 ユーノも同意見。思いを言ったときなどは恋を感じていたのに、今ではこれでは……
「恋愛は甘い、なんてゆーけど。私には楽しく感じるわぁ……ユーノ君と一緒にいることが 話すことが、顔をあわせて嬉しくなること。すべて楽しい。だから、別にこのための投資やった、と思えば……チョコの数個ぐらい、や」
「……なんでかな、僕もそんな感じだ。 なんていうのかな、今までと変わらないっていうか。純粋な恋というよりも不純な恋、だからかな?」
「不純って、何か混合物でもあるん?」
純粋の対義語の不純。純粋ではない、の意味はつまりはそういうことで。
「……家族、かな。両親を知らない僕にとっては、親しく接してくれる人ってそうはいなかったから」
「でも、それぐらいがええんと思うよ。愛は八ヶ月を半減期とする物に過ぎない、なんていう人もおるし…… 私も、お世辞にも純粋な恋とは言えへん。いつの間にか恋していた。ただそれだけや」
「……そっか。いつの間にか、か……はやて」
ゆっくりとはやてを見つめるユーノ。その笑みは卑怯やと思うはやて。 だって……
――その笑みは、私がいつも、チョコの約束も、リインのときも、そして助けようと思ったときも、いつも私を掴めて離してくれない笑み……
「はやて、やっぱり好きだよ」
「ユーノ君、それ、私もや」
でも、こんな軽い恋らしいから。 純粋と言うよりも子供のころの約束と、他人を思いやる気持ちから生まれた二人の関わりと、そしてそうしたがゆえに生まれた思い。
そんな思いでも、それでもやっぱり。 それは恋なのだから。
――バレンタインの約束は、長く尾を引いて。二人を結び付けたから。
後書き チョコレート昔話から、告白話まで書いてしまう男、スパイダーマッ!(ぁ よくも哀れなはやてさんを主役にしたな!許せん!(はい、ごめんなさい。
ま、まあとりあえず……収拾がつかなくなった巨大作、とだけ言っておきます。 最初はユノはやでシリアス路線で3つほど試作してみたのですが、どれもボツ。フェイト編の途中からこれ書いてましたからね。で、結局、その後長編書きつつ書いたのも、ボツにして。 で、1から書きなおしたのがこれ。
実は私の持論のテスト的な意味もありました。 男女比は正しく、と言う奴です。ほぼ5:5の割合の男女比になっています。
まあ、そのせいかエリオ×リインなんて異色の色が。これの後日談は後でWeb拍手にいれる予定。
というか、酔ったエリオきゅんが可愛いな、おい(ぁ 酔ったエリオ君のモデルはカードキャプターさくらよりスピネルことスッピー。お菓子食べちゃうと酔うあの子ですね(知ってるからは知っていると思いますが
抱きついたりと、エリオ君が朝起きたときが非常に興味深いですw
恋愛色を後半強めた関係で、前半のラブコメ度が大きく落ちたのがこのSS最大の問題点。 でも、恋愛色無くしたら、これはやてのバレンタインSSじゃなくなるじゃないか、という諸刃の刃。Web拍手の後日談は完全にギャク色にするのでそれで勘弁してください(ぁ
はやてとユーノの10年前の約束、という設定はありがちな設定かな?
皮肉なことに、リインが生まれた時期となのはが怪我した時期が一緒。もし、なのはが事故を起こさなかったら、はやてはユーノのことを心配して良く会いに行くこともしなかったかもしれぜず、となると別の人と、となるえるあたり、IF系ですね、これ(ぁ
このSSは、なのはさんとフェイトさんもユーノ君にアプローチをかけていたのですが、はやてとユーノが恋人になったことを知ったら、いったいどうなるのやら……ここまで書ききれませんが(主に魔王に消されたくない的な意味で
エリオは、どうやらこの世界では「エリオはデバイスに恋してる!?」的な状態のようです。ああ、やっちゃったね。リインとエリオ。これはこれで良いんじゃない、と思ったり思わなかったり。
とにもかくにも、一つのSSに詰め込み過ぎた感じです。これじゃナデシコじゃねーか(ぁ
っと、感想返答です
>確かにそうですが自分は誰が何と言おうと『ユーノ×はやて』です!!世間が『ヴォロッサ×はやて』というカップリングが多いと言ってもです!!ではユーノとはやてのバッカプルSSを待っています。では。
セブンウィンズさんこんにちわー。お元気な用でw 今回のSSはバカップルとは違う意味でバカな二人だと思いますw このSSのバカップルはハラオウン夫妻とリイン&エリオの酔ったときぐらいかな? ヴェロッサ×はやても良いと思うわけですが……自分、教会がそもそも好きじゃない(ぁ 古今東西、教会とついてまともな組織があった試しが無いので、どうも疑いの目で見てしまうようですw それも、ヴェロッサ×はやてを書きにくくしている要因だったり(まあ、ヴェロッサは局寄りですけど
>素晴らしい。応援してます
ユーノきゅん可愛いよユーノきゅんさんこんー 名前から見て、凄く元気でユーノ君好きが伝わってきますね。でも、今回のSSできゅんと呼べるのはエリオきゅんだけです。ごめんなさい(ぁ 応援ありがとうございます。これからもがんばりますねw
>どうもグリフォンさん、相互リンクしましたのでご連絡に来ました。 >魔法少女リリカルなのはStrikerS~もうひとつの物語~の連載楽しみに待っていますのでがんばってください!
リンク関係の奴は上げるべきか悩みましたが、二次創作関係の方も書いてあるのでw エンガンさんこんばんわー! リンクどうもです。長編の物語はこれからゆっくりと六課設立まで数話で進みたいところですが、空港火災が難敵っぽいですw 空港火災は、どうやればあんな火災になるのか、イマイチ理解できないのですが、まあ色々と考えております。誰が出るか?そりゃ、魔王か閃光か狸のどれかですよ(ぁ
>投稿関連は私……でよろしいでしょうか。 >でしたら、私のほうはお気になさらず、ゆっくりで結構ですよ(^^) >長編、頑張ってください。
>というか、反応遅れてしまってすみません。
結城ヒロさんこんばんわー。いえ、むしろ私の方が出せて無くてすみませんw ゆっくり書いて見たいと思います。とりあえず、お酒だね(エリオきゅんでも出すつもりかお前は)
>新キャラの元ネタはやはり芳乃さくら嬢でしたか、ということは50歳を越えても若いままなんでしょうね(笑) >次回も楽しみにしてます。
ミヅキさんこんばんわー さくらを出したのは、私が深夜帯アニメで最初に見たのがD.C.S.S.だから(ぁ この世界への第一歩がD.C.(厳密には機動戦艦ナデシコ)なんで、どーしても思い入れがありまして。 まあさすがにシエラさんは普通に年を取りますが(汗 次回は……まあ、シエラさん引き続きとユーノ・はやての関係性と、はやて関係が多いこの頃ですw
>ユーなのはやっぱり最高ですね。
ユーノ大好きっ子さんおはつー^^ ユーなのは、基本ですよねー。まあ、原作はクロなの、なんですが。 StSの設定集でも、なのは・ヴィヴィオ・ユーノで関係は続いているようですし。まあ、乱世より平時の方が会いやすい人ですね、ユーノってw しかし、桃子さん&士郎さんの家にいると、夫婦、という感覚が麻痺ってしまうのだろうかw(バカップル的な意味で 現在、なのは編を書きつつ、まったく関係無い短編二次創作を一つ書こうと思ってます。 長編も書きますけどねw それで、その短編のカップリング要望を受付中wここに書くももちろん良いですしWeb拍手で送ってくれても結構です。ちなみに長すぎたこのSSのサブカップリングこと、エリオ×リインについて感想をぜひ欲しいですw 実はユーノ×はやて以上にこっちのほうが(Web拍手のおまけの方とか特に) い、いえ。ユノはやもどうか聞きたいわけですがw それではーまたの機会をーー