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――私の思いの一片だけでも、あなたに届いて。 ――あなたに気づいてもらえない思いなんて悲しいから。
――三人の乙女があなたに微笑んでいても。でも私に気づいて欲しい。 ――だって私は、あなたを愛しているから。
――――――――――
夏。 常夏ではなく、四季もはっきりしているミッドチルダ首都クラナガン。 そこにあるミッドのハラオウン家では一人の女性が忙しなく台所で格闘をしていた。
白樺の篭が近くには置かれていて、さっきから台所で料理をしている女性は明らかに真剣な顔だった。 金髪、と呼ばれる髪をツインテールにして急ぐ様子は、料理で髪が入らないようにする以上に、何かを狙っている様子で。
「えっと、これはこうで……ええ、ここは……どうすればいいんだっけ……」
フェイト・テスタロッサ=ハラオウン、という二重姓を持つ少女は本当に忙しなく動いていた。 事情を知らない人が見れば、恋人とのデートかな、と思うほど。当らずとも遠からずなのだが、作っていた料理は4人分あった。デート、というには明らかに多い量だ。 それでも、その表情にはどうみても何かを期待するような表情でもあった。
「これなら……美味しいっていってくれるかな……」
時空管理局において「真理が我らを自由にする」地で行っている無限書庫。 それだけに司書長のユーノは忙しくて……暇を作れることは滅多に無い。 先日のバレンタイン騒動以降、話す回数がだいぶ増えて今日は一緒に出かけよう、ということになっていた。そして、そのお弁当作りをすることになったフェイトは気合を入れて朝早くから料理を作っていた。
はやてやなのはに比べると、料理の腕は平均的。それでも……とここ数日、料理本やリンディから教えてもらったりと必死にがんばっていた。
そこにユーノへの思いもあって……って、何考えているんだろう、私。と煩悩らしきものを振り払う。
「よし、後はこれを詰めて……」
出かける先は海。 ミッドチルダは魔法文明なので、海の水も綺麗なものが多い。 想像するだけで楽しみで、それがもうだいぶ前から。 ユーノが楽しめるように、と色々と構想まで練ったり、その力の入りようは、自分で食べるためにかつて作っていたチョコレートとは大違いだった。
ついつい、フェイト本人も楽しんでしまって、ううんダメダメと思う一幕が何度か。
それでも、フェイトは思うのだった。 彼が笑っていて欲しいと。
チョコレートを食べた時の彼の表情は覚えているし。 仕事量やあまり彼と連絡は取っていても会っていないことを再認識して。 それからというもの、フェイトは時間が空けば彼の元に顔を出していた。大体はちょっとした言い争いから始まるのも……悪いのかな、とフェイトは少しだけしょんぼりとしてしまう。
そんな近くで料理をしていることを確認するリンディとエイミィの二人組もなにやら微笑んでいる様子だった。地球から長期のお休みだから偶には、とミッドに戻ってきたエイミィと子供二人。フェイトが誰と行くか聞いていないのだが、それでもフェイトの行動から大体予想していた。
「よし……できた。って、もう時間ギリギリ!い、急がないと!」
もう、時間はあまり余裕が無い。服もできる限り早く着替えて。 えっと、こっちが。、でもこっちのほうが……と迷うけど、できるだけユーノが気に入りそうなのは、と選んでしまって。それでも10分で決めることが出来たのは早いほうだろう。 黒のスリップドレス。夏のリゾート地なら十分OKと言える姿は、海に行くのにあってるかな、と気にはなったが、それ以上に似合っているか心配だった。海だから水着も……と一つの水着をゆっくりとバッグの中に入れる。
さっき作った料理も、と篭にちゃんと入れたことを確認する。 ぜんぶ大丈夫だ、と一安心するといざ出かける。
目的地は……待ち合わせ場所だ。
――運命の女神は残酷な女神。 ――人の人生をばっさりと決めてしまうんだ。 ――でも、それでも思えるのは ――やっぱり運命なんて、自分で決めるものに過ぎないから
ミッドチルダ中央管理区(首都クラナガン周辺)は、中央交通管理ネットワークこと「アディカス(Automatic delay control system-自動渋滞制御システム)」が管理している。 通常、それに渋滞はありえない。多くの車が通る時期でもなければ、アディカスが管理できなくなるほどの車が通ることがないからだ。
そんなアディカスが管理しているクラナガン郊外沿岸地区。そこにあるカフェ「フィアット」は、その中にあってもあまり人がこない通な店なのだが…… 主要道路は現在混んでいて……渋滞が起きる時期、いわゆる長期休暇期であり、さらには近くで事故もあったためだ。いくら渋滞を管理することが目標に作られた最高のシステムも事故というイレギュラーに対応するには些か限界があったらしい。
そんなカフェでゆっくりと待つ青年と少年が一人ずつ。 青年の名前はユーノ・スクライアであって、少年の名前はエリオ・モンディアルだった。
「4人って、フェイトが言ってたのはこういうことか……。エリオ君は?」
「フェイトさんと、そのキャロを……キャロ、少し買い物があるってさっき出ていって……迷っちゃったのかな」
「……エリオ君、酷いよ。私迷ったりしないもん!」
エリオの後ろから声を大にして叫ぶ桃色の髪にとっても夏にあうような白と青ベースのワンピース。 麦わら帽子もかぶっていれば、それは夏の少女の典型というべきか。
そういえば、昔なのはが似たような服でいたことがあったっけと、ふと昔を思い出す。 あれはもうだいぶ昔の話にも感じて。今じゃ、メールで連絡とヴィヴィオ関係でしかあわない女性。 記憶の中では笑顔だけが残るような、なのは。
幼きころの彼女と、キャロがダブッて見えるのはなんでだろう。 何か、似たところでもあるんだろう。良い子みたいだし。とユーノは再び紅茶を一杯。四人席のテーブルなので、ユーノ前にエリオとキャロが座っている構図だ。
ユーノも目の前のエリオもだいぶラフな服装なので、まあ夏らしいといえば夏らしい。 と、エリオとキャロにもオレンジジュースが運ばれてくる。頼んでいないのに、と不思議そうな表情をする二人を見ていると、なんだか本当に昔のなのはやフェイトや自分を見ているように錯覚してしまうのは、昔の自分ならと思うところがあるからだろうか。疑問はいくらでも沸くところだった。
「あ、あのこれは……」
「僕からの奢り。どうせ、大した額じゃないから気にしないで」
最高級品でも万の位には絶対に行かないだろう。 それに、とユーノは思う。ほとんど接点のない目の前の二人だからなぁ、と。
それでも、悪いと思ったのか、キャロの方が決意をしたようにユーノの方を向いて。
「あ、あのスクライ……」
「なまえでよんで、くれるかな?キャロ、でいいのかな?」
「えっと、ユーノさん、でいいですか?私も、それでいいです」
名前を呼ぶことは大切な儀式。 「名前を呼ぶ」のは「わたしは、あなたがだれだかちゃんとわかっていますよ」という証明。(注1) だから、ユーノも大切にしていた。単純なだけに、大切なのだ。言葉をかけたことがどう繋がるか。 なのはも昔、そうだったし……と思い返しながら。 「エリオ君も、ね?」 「あ、はい!ユーノ、さん」 返事をして。それじゃあ、と二人揃ってオレンジジュースを飲むエリオとキャロ。 二人して笑顔で互いを見ながら飲んでいるのは、どこかの兄妹か。あるいは…… 「……恋人かなぁ」 「「!?!?」」 驚いて、思わずオレンジジュースを飲んでいたストローに空気を入れてしまい、二人ともオレンジジュースから泡がぶくぶくと出た。そんな姿がまた可愛いなんて意地悪な想像をするユーノ。 でも、実際に可愛かった。二人が互いをどう思っているか、それは分からなくても。 ただ、恋人、という単語を口に出した時、まだ来ていない最期の一人を思ってしまったのは あるいは、変に自分自身が意識したからだろうか、と疑問を抱いてしまう。 今まで、大して意識したこともなかったあの人を。 「あ、あのそういえば、なんでユーノさんとフェイトさんなんですか? フェイトさんから聞いた話だと、ユーノさんってなのはさんと親友なんですよね?」 「うーん。なのはと親友の僕がフェイトと親友が、おかしいかな?」 そういわれるとエリオも「なるほどです」と返す。 まあ、自分自身、フェイトとなんで一緒にこんなことしているんだろうと不思議になってしまう。 一年前ならまったく考えられない光景かもしれない。実際に、一年前、僕に一番近かった女性はなのはだった、と今でも確信を持って言える。今でも、なのはとフェイトがほぼ変わらないんじゃないかとも。 そういえば、と思い出したように今度はキャロが話を振り出す。 どっちかと言えば、人見知りをするタイプのキャロとしては珍しい行動と言えるかもしれない。 二人とも、この予想外の4人目に色々と実は興味津々だったのかもしれない。 表向いてあったのは、アグスタ騒動の時にちょっとだけ、で。むしろ、だからこそユーノと一緒に、と知って、今緊張もある程度崩れて、話す気になったと見るべきか。 やっぱり、大人びていても、そういうところは子供なのだ。 「えっと、フェイトさんが言ってました。ユーノさんもなのはさんと同じで 私の命の恩人だって。とっても嬉しそうな表情で言ってたので、記憶にあるんです」 本当に嬉しそうに話しているのは実はキャロじゃないかと、ユーノが思うほど嬉しそうに話すキャロ。 身内、いやお母さんかな……のフェイトの話だからだろうけど。 だからこそ、嬉しそうに話すんだろう。そうじゃなきゃそこまで嬉しそうに話すことは滅多に無い。 ユーノにして、そんなことを思わせるほどの笑みだったのだから。 ただ、一言言っておかなきゃいけないだろう。 「でも、僕は大したことして無いよ?」 実際にしてないし、というのがユーノの嘘偽りもなく飾ることすらない本音だった。 動いたのはなのはであって、保護したのは管理局。僕は、せいぜいなのはの補佐程度だった……これがユーノが思っているPT事件の全貌だったりする。 キャロが麦わら帽子を横に取っておいて、不思議そうな表情へと変化する。そう見られても困るんだけどなぁ、とユーノも困る。実際、ユーノにとってはそうなのだから。 「いや、僕にとっては大したことしたつもりないし……」 「謙遜しすぎです!ユーノさん!」 バシッとユーノに言うのはエリオ。 二人で役決め分担でもしているのだろうか。いや、二人にとってはこれが自然なのかも、と感心したように見てしまう。僕自身、本当に大したことはしてないと思っているんだけど、やっぱりそういわれるとそうなのかな、と。 「……そうかな?」 「フェイトさんがいれば、絶対に言ってましたよ。 実際にそこにいた、その事実が当人にとっては……きっと、大切なんです」 「私もそう思います!」 「そ、そういわれるとそうかもしれないけど……」 それでも、そんなたいそうなことした覚えはないんだけどなぁ。という辺りがユーノのユーノたるところでもあるが。 と、話しているうちに時間が過ぎていって…… いつの間にかエリオとキャロのオレンジジュースもなくなっていたり。 そういえば、僕の紅茶も無いや、と自分の方を後になって気づくユーノ。彼らしい。 「そういえば、フェイトさん遅いですね。待ち合わせの時間にもうなってますけど」 「アディカスのリアルタイムデータによると、この近くで交通事故が起きてる。アディカスはすべての車にアディカス端末をつけることで、すべての車の現在位置から目的地ごとに最適なルートを算出するけど、事故が起きると……なかなか、時間ちょうどに来ることはできないからね、エリオ君」 「えっと、つまりフェイトさんは遅れるんですか?」 「でも、ここに来るならそんなに遅れることは……噂をすれば、かな」 ユーノがそういった瞬間。店のドアが開く音が響いた。 未だに自動ではなく手動で空ける前時代的なドアは、それだけに誰かが入ってきたことを楽々にそこにいる人に教える。 タッ、タッ、タッ、と急ぎ足の音がユーノたちが座っていたテーブル席にまで到達して。 「ご、ご、ごめんなさい……その、混んでいて……」 遅れて登場の、それは確かに姫様だった。 黒のスリップドレスに身を包んだ女性。海に行く、と言われると疑問詞を出したくなる雰囲気に普通ならなるはずなのに、それも彼女からは一切感じさせない。 正にフェイトという名前を持つ女性はそういう人だった。 いつも……というわけではなくても、良く見る親友なのにも関わらず、その雰囲気に一瞬見とれてしまう。 って、何しているんだ僕は、と気分を振り切って。 「う、うん。別にゆっくりしてたから問題ないよ。ねっ、二人とも?」 「はい。ユーノさんにオレンジジュース貰いましたから」 「わ、私もです。フェイトさんも、私たち全然待って無いですから大丈夫です!」 「そうかな、うん。ありがとう」 ありがとう、と感謝の言葉を言われて元気そうな笑みを浮かべるキャロとエリオ。 ユーノはというと、ちょっと照れながらも笑みだった。 まあ、恥ずかしいからね……、恥ずかしいことは良いことだ、と誰かが昔言っていた気がしないでもない。 「ほんと、ごめんねユーノ」 「僕も気にして無いし、君のせいじゃないだろ? あまり気にしすぎると、体に悪いよ?せっかくの休暇なんだからさ?」 「……いつも書庫に閉じこもりのユーノが言うと、なんだか不自然だよ?」 「うっ……まあ、そっか。でも、それならちゃんと楽しもうか?」 無限書庫の番人とまで言われたユーノ。でも、目の前にいるのはそんな彼でなく、親友のユーノ・スクライア。 そんな笑みを浮かべながらユーノはふと思い出したかのように一言。 「じゃあ、遅れた罰に……お勘定ね。僕の紅茶の代金だけで」 そのときのフェイトの表情は、意外なユーノの一言に、なんだか嬉しいやら悲しいやらのフェイトだった、というだけに留めておこう。 ちなみに、オレンジジュース代はちゃんとユーノが払っていたことは言うまでも無い。 なんだか、意外と仲の良い二人だったりするのに、これでも親友なのだから……世の中不思議に満ちているものである。 ―――――――――― 地上へ燦々と照りつける太陽の日差し。 透明度が高く、かつ薄青さを見せる海。 魔法科学を利用した世界では、排水という概念は限りなく小さい。魔法ですべて綺麗になってしまうのだから。 魔法と言っても、むしろそれは科学と言っても良い。 地球のSF作家アーサー・C・クラークは「充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない」という後のクラークの第三法則を残している。実のところ、なぜかユーノがそれを知っているのははやてが読んでいた本を借りてそれで知っただけなのだが。 とまあ、むしろ逆だろう。この世界では。 曰く、十分に発達した魔法は、科学技術同様に振舞う、と。 「本当に綺麗だなぁ……大都市近くの海なのに」 「ユーノさん、パラソルはここでいいんですか?」 「ああ、えっとそこらへんで良いと思うよ。エリオ君」 バサッとパラソルを開くエリオ。ちゃんとパラソル用のテーブルもさっきユーノが出しておいたのでそこになんとか指す。エリオの体にはちょっと大きすぎるパラソルだった。 いつも、槍を振り回す少年がパラソルに踊らされる?光景もこれまた珍しい気がするが。 男性二人。普通に着替えは1分だった。というか、即終了だった。 魔法が発達しているのだから、バリアジャケットのように一瞬で着替えられる、と思ったらなんてこともなく、普通に着替えないといけない。それが示すようにフェイトもキャロもまだ着替え中だった。 魔法でも、使うには色々と規制もあるし、時と場所を選ばないといけない。それは科学技術も同じ。 もし、選ばなくていいなら地球の浜辺にはコンセントがいくつあっても足りなくなるだろう。つまり、そういうことである。 「ふう……久しぶりにこんなことしたかも」 「えっと、無限書庫でいつもお仕事なんですよね?」 「……まあね」 いつもと言われれば確かにいつもさ……別にこもり生活しているわけでもないと思っていたんだけど、と思いつつも確かにこうやって海水浴をしたりすることは皆無だった。それ以前に誰かと一緒に休暇を楽しむこと自体が皆無だった。 実のところ、誘われても断っていることも多かったり。仕事がそれぐらい忙しかったのだ。 休暇がとれたのは珍しいというレベルではなく、本当に偶々だったほど。 準備は出来た、とばかりに立てたパラソルの下のテーブルのイスに座る。エリオも別のイスに座る。 そんなエリオの表情は笑み。笑み。笑み。珍しそうな表情でパラソルやテーブルを見て。エリオはともかくユーノも海水浴なんてほとんど始めての経験で。行動のユーノとエリオの差は大人かどうか、と言ったところ。二人とも、実のところ楽しんでいる点では大差無い。 「平和だねぇ……」 「そうですね……」 海を眺めながら何か悟ったかのようにそんなことを語り合う二人だった。 ふと、何かお勧めの本とかありますかとエリオが聞いて、ユーノがいくつか面白そうな本を上げる。SF系が多いのはユーノの趣味か何かだろう。 楽しそうに本の話を始めるあたり、二人とも息の会うところがあるのかもしれない。 と、のんびりとしていると、ペタペタといきなりユーノの視界がゼロになった。 「誰でしょう、ユーノ?」 「いや、どっかの以外とお茶目さんな執務官さんでしょう?フェイト」 「やっぱり、分かるんだ」 ぱっと目を隠していた手が離れる。 「そりゃ、君と一緒に来たんだから……」と後ろを振り向きながらそこまで言うだけで言葉が止まる。 スリップドレスはスリップドレスで彼女らしかった。大人びた女性の雰囲気で。 となると、水着はなんだろうと、思って無かったわけではない。 とはいえ…… 「ど、どうかな? そのタンクトップ・ビキニとフリルつきのものにしてみたんだけど……」 顔は少し赤く頬あたりから色がついていた。フェイトもユーノも。 言うほうも恥ずかしくて、見ているほうも恥ずかしい。キャロがワンピース調のAライン水着を水色でばっちりと彼女らしく決めていたりするのもその後ろで見えたりするのだが。 そんなとき、男性と言うのはありがちなことしか言えないものだ。 特にユーノのような人は。 「う、うん。とっても似合ってるよ」 普通の水着、というよりも服下着と水着の中間とも言えるタンクトップ系との上下の相性は、フェイトが着ると可愛らしさと女性らしさを両方演出していた。 水着に関しては、なのはやはやて、特にアリサ辺りはフェイトに露出度の高いものを薦めた。 バリアジャケットがあれやないかい、とはやてから突っ込まれるほどだったのだが、それはさすがに恥ずかしくて。結果、エイミィと数日前に買いにいった先でこの水着となったりする。 これでも、フェイトもユーノも別々の意味で顔真っ赤で。 「そ、そうかな?に、あってる?」 「大丈夫だよ。その……フェイトだから」 その言葉で再びフェイトの顔が真っ赤に戻る。 恥ずかしくて、でもなぜか嬉しくて。後はちょっぴり楽しくて。彼とエリオとキャロでここにいることが嬉しくて。 とっても、愛しい相手。親友なのに。親友のはずなのに。 男女の親友、というものが歪だと言われる世界。そんなことは実際無い、それは誰もが知っていること。 でも、それでも何かが少し違う。とっても、嬉しくて。 フェイトには、その一言がそれぐらいに感じた。なぜか、本人にも分からないものだったけど。それでも。 と、フェイトの後ろからキャロが、キョロと顔を出す。エリオもフェイトとキャロの方を向いていて…… 顔真っ赤だ。こっちは青年期特有というべきか。若いね、そう心の中で言わずにはいられない。 そういえば、自分もお風呂で色々と見ちゃって……あれは思い出すだけで頭が痛くなる、となんで逃げなかったのだろうと、未だに不思議に思って仕方ないユーノだった。 「あ、あの!私のは、どうでしょう?ユーノさん」 「うん、キャロのもとっても良いと思うよ。ね、エリオ君?」 「えっ!?ぼ、僕ですか?!」 いきなりユーノから指名を受けたエリオは困惑気味だ。 キャロから期待の眼差しがエリオに集中する。それは期待だけではないようにも見えた。 「ね、どうかなエリオ君?」 「あの、その。なんていうか……」 「なんていうか?なんなの、エリオ君?言ってよ?」 「いや、だからキャロに……」 期待しているだけに聞きたいキャロ。 言い寄るようにエリオに近づいてでも聞こうと一歩ずつ近づく。 そんな様子を微笑ましいと眺める二人。 この4人の関係をこれを見ただけで正しく述べられる人はきっといない。 「エリオ、照れてるのかな?」 「そりゃ……普通、照れるんじゃないかな?キャロ、可愛いし」 そんなものかな、とフェイトはユーノの言葉に納得したようなしないような。 あ、でもそれなら……と疑問が浮かぶ。 私のじゃあ照れなかったのかな、と。 「じゃあ、私じゃユーノは照れないと」 「あのね……その、見とれてたから」 「!?(真っ赤)ユーノ……!?」 エリオとキャロは、なんていう必要も無く二組とも、初々しかった。 でも、これでもいいかも……。フェイトにはそんな風にも見えていた。とっても、嬉しいから。 ユーノに褒められて嬉しいから。そんな感情が。 ―――――――――― 海に来たからには泳がないと、というのが誰しも思うところ。 全員揃って泳いだり、砂でお城を作って見たり、水掛けもしてみたり。 フェレット・モードに変身したユーノがいきなり水中に潜ったときはいきなりユーノが消えるように見えて何があったのか一同揃って驚いた上にエリオの頭の上にフェレットがぽんと乗ったりして大笑い。 水泳では、なぜかフェイトよりユーノの方が早かったり……予想外な特技を見た気分だった。 フェイト自身、及ぶのは好きではなくても、不得意なわけでもなかったのだが。 それでも、ユーノに何度も勝負を挑んで……それはそれで楽しかったからいいかなと思うところ。 なお、エリオとキャロの水着問題は結局、エリオが『えっと、だから……可愛い……』と押されながら言って決着がついたみたいだった。フェイトにしてみれば、ユーノの一緒にいてあまり覚えてないのが事実だったりして。 ……それぐらい、緊張して……ユ、ユーノと一緒で?!と何か慌てた風に考えてしまう。 それはつまりで、あれかな。あれ。 恋?と。 そ、そんなわけがないと否定をしてきたのは今までも同じ。 でも、あのバレンタイン以降、すべてが少しずつ狂い出しているのも事実で。 朝からずっと分かっていた。 自分は、彼に、恋してる。と。 否定したかった。でも、一緒にあって、さっき水着を見てもらって、一緒に遊んで。 それでも、いやそうしていくうちにもっと思いが大きくなる。それが手に取るように分かったから。 「どうしたの、フェイト?」 「な、なんでもないよユーノ」 今、海で泳いでいるのはエリオとキャロだけ。フェイトとユーノはパラソルのところで二人揃って休んでいた。 竜騎士が同世代の女の子の押されっぱなしの光景が眼下には映っていて。 「でも、ユーノの一緒にどこか行くって、始めて……だよね」 「そういえばそうかも。みんなで一緒に行く時はよくあるんだけど、小人数で行くって珍しいよね」 「うん。大人数で行くときは、いつも私とか控えめになっちゃって」 「それは僕も同じだ。どうしても譲っちゃったりね」 だから、いつも席を決めようとしたりすると最期に残った人というとユーノとフェイトだったりする。 なのは辺りが不満そうな目をしながらも、フェイトとユーノの二人で話したり……今記憶を掘り返せば、色々と昔から二人で話すことはそれなりにあったなぁ、とユーノもフェイトも思う。 フェイトはゆったりとイスにもたれてみて……。 「小人数だと、なのはとその一緒に行ったことぐらいなのかな、ユーノは?」 少し、悲しそうな表情と共にフェイトはそう小さく口に出した。 ユーノとなのははパートナー。 もう10年以上前からの話。あの二人のおかげで今の自分がいる、と思えば二人とも大切。 でも、ユーノのことを意識してしまうと……それだけを考えるだけで、自分は彼に好意を持っているとイヤでも理解してしまう。惚れた腫れた、そんなことが自分で思うほど。 だから、ユーノとなのはのことを口に出して、少し気が小さくなるしかなかった。 でも、その言葉に予想を反してユーノは口を動かした。 「いや、なのはとも個人的にどこかに言ったことは無かったかな? PT事件の時のジュエルシード問題で一緒にいたことは事実だけど、アレ以降は僕もなのはも一緒にいることが珍しくなったから……」 「そ、そうなの?」 「うん。 だから……僕にどこか行こうって個人的に誘ってくれて、一緒に行ったのはフェイトが始めて……かな?」 ユーノにとってすれば、それが事実で。 ――だからかな。フェイトに誘われたとき、嬉しい気持ちが底からあふれたのは。 今まで、みんな揃っての時に誘われたことはあっても、誰かが個人的に、というのは極端に少なかった。 それは、ユーノ自身知人の数が少ないこともある。それ以上に……彼が忙しくて。かつ彼に個人的に何かを誘う人がいなかった。なのはでさえ。 JS事件後、ヴィヴィオの関係で今までよりは話す機会は増えているのだが…… なのははユーノのことをどう思っているのか。ユーノもよく分からないのだ。その曖昧な関係が。 仲は睦むほど。でも、それが何なのか分からない。そんななかで、フェイトがユーノを誘ってきて。 「そ、そうなんだ……私が、始めてなんだ」 「うん。フェイトが始めて。ありがとう、誘ってくれて」 「そんなことないよ! その、ユーノは私に取っても大切だから……」 優しさの空気と思い。フェイトはかつて助けてもらってくれて。 ユーノもフェイトも。 夏の日にそれを言うのは何か違っているように思えるけど。 なのはと一緒ではない、というユーノの言葉に私が最初、と嬉しくなって、笑みがこぼれる。 ユーノもフェイトも穏やかな表情のまま。 ただ、時間だけが過ぎて行く。二人だけでいる状況がとっても不思議で。 それは、ただただ、二人だけで一緒にいるだけ。でも、とても嬉しい状態。 ある意味、それが押しの弱い二人にとっては……最高の休憩なのかもしれない。 が…… そんなこんなで時間は過ぎる。 そして、お昼になれば、お腹も空く。 それはずっと遊んでいたキャロやエリオももちろんで。 ぐぅ~、という音が猪突にユーノの耳にも入ったぐらい。 その横で凄く居心地が悪そうな表情で顔を朱色にしているフェイトがいて。 「その……昼食にしようか、ユーノ?」 というわけである。 それで、テーブルに置かれ目の前に並んだのは、フェイトが朝から作ってきた料理。 サンドイッチに卵焼き、鳥のから揚げに、……と。一通りの料理。サラダやキャベツを挟んだハムロールもある。フェイトが朝からがんばって作った成果、がそれだった。 「じゃあ、えっと……これで……美味しいです、フェイトさん!」 「私はそれじゃあ、玉子焼きで……とっても美味しい味です!」 最初に口にした二人は美味しそうに次々とフェイトの料理を口にして、良い表情を上げ続ける。 ユーノも適当にハムロールを取って口に入れる。 フェイトの目線が一心にそれに向いて。 ユーノも、いや、食べるだけなのに緊張するなぁ、と見てたり。 ぱくっと口に運んで一口。 「……うん。美味しい。良い味付けだね?」 「がんばって、料理の本とか見て作って見たんだよ。朝早くからがんばっちゃった」 凄いでしょ?とちょっぴりだけ鼻を高くして誇らしげに言うフェイト。 でも、確かに美味しい。とユーノは料理をご相伴になることにした。十分にこれなら誰もが認めてくれるだろう。 一方のフェイトと言えば、みんな揃って美味しそうに食べてくれて、ひと安心。 全員揃って午後の昼食を美味しく完食。デザートの林檎を取り出して切ってテーブル中央に置く。 スイカじゃないのがミッド流らしい。 と。 「はい、エリオ君。あーん♪」 「キャ、キャロ!?」 ・・・ ・・・・・・ ・・・・・・・・・ フランス系の人間は時として楽観視と天然と、大胆な性格を持っているという。 ル・ルシエは地球のそんな地域の人に近いらしい……キャロは普通に笑顔だった。ユーノもフェイトも唖然だった。これにはさすがに。 一番、緊張しているのはエリオだろう。 ふと、ユーノもフェイトもここでは息があうツーカーの仲のようにエリオの方を向いて。 驚きで穴に入りたい様子だった。兄妹だとしてもこれはさすがに。 「って、キャロ。こ、こんなところですることじゃないから!」 「えっ?そ、そうなの? フェイトさんとユーノさんはしないんですか?」 爆弾発言。 同時にユーノもフェイトも動きをそれで止めてしまう。 でも、ユーノは思う。エリオ君。こんなところでってことは、実は二人だけの時はしている、とかじゃないよね?と。 ただ、そんなことよりもキャロの発言の方が優先度大だった。ゆっくりと互いに互いを見つめて。 両方とも頬が赤で染まっていたが。 「ふぇ?いや、その私はユーノにしたいかしたくないかと言えば、なんていうかあのその…したいようなぁ……あ、でもね、やっぱり……」 あちゃぁ、と思ったが最後。フェイトは完全に慌てていた。暴走していた。 パソコンが処理不可能になってデッドロックを始めてしまったように言ったことを繰り返していた。 「あ、あの。フェイト?」 「ユ、ユーノとあーんって、そのあの、いや!でも……」 大丈夫なのかな、とフェイトの肩に手をおいて今度は揺さぶって話しかけようとする。 と、力を入れようとして手が思わずすべる。 「……フェイ!……ト……」 スルっと手が落ちた。体全体のバランスはそれでも何とか保つ。 でも、手は最悪?の場所に落ちて行った。そこは………フェイトの胸の近くだった。 というか、手元はほぼ完全に胸を……掴んでいた。 どうしようとか、そういう問題じゃないんだ。これは事故で、僕は悪くない悪くない…… 言い訳に固めたユーノの顔は真っ青だったが。 エリオもあちゃぁ、と表情でユーノを見ていた。むしろ同情の眼差しだったのは最初に彼女にあって胸を触ってしまったからだろうか。二人とも管理局でこと囁かれる「淫獣の無症候性キャリア」なのかもしれない。 ゆっくりとフェイトが阿鼻叫喚に近い何かの雰囲気を漂わせていたが……生憎、ユーノは気づかなかった。 ただ、謝ることだけを考えていた彼はある意味紳士でピュアな心なのかもしれない。 「フェ……フェイト、そのごめ「!?!?プラズマザ――!」」 ―――――――――― 注意一秒、怪我一生。ダメージはプライスレス。むしろ買いたく無いところではあるが。 無許可の魔法使用その他。さすがにビーチで魔力光が発生すれば管理局だって飛んでくる。飛んできたのが沿岸・湾岸警備をしていたスバルじゃなければ、恐らく厳重注意ではないところだろう。 波が切れた、とまで称され、近くにいた人からは何事かと調査依頼が管理局に飛ぶ始末。 管理局員が魔力制限をしないといけない理由が分かるような事件である。 咄嗟のシールドのおかげで直撃はしなかったものの、トリプルブレイカーの一つとして存在する有数の強力魔法。プラズマザンバーブレイカー。バルディッシュを使ってなくても威力はやっぱり強かった。 無限書庫の多重魔法使用を応用した多重シールドが出来なければ今頃病院送りだったはずのユーノはなんとか疲れ果てた様子で何とかイスに座りなおす。 魔法の行使やら何やらで午後の一時は一瞬にして奪われてしまっていた。 エリオとキャロはスバルのおかげで難を逃れて引き続き(あーん含めて)遊ぶことができたものの、さすがに魔法を使った本人と原因の二人はそうはいかない。一通りの事情聴取をうけることになってやっと脱出したのが夕日も強い午後6時だった。 「本当に……ごめんなさい」 「いや、もういいよ。フェイト。その、僕も触っちゃったことが悪いわけだから」 さわり心地は悪くなかったかな、などと変な感覚が思い出されてすぐ消えた。 座っていたユーノが見た先にいたフェイトが泣いていたから。 「だって、せっかくの休暇で休んでもらおうって思ってたのに……私が勝手に変に想像して ブレイカー当てちゃって……まったく、休めて無いよ……むしろ、前より疲れて……」 疲れたというよりもプライスレスだった。 コンマ何秒をあそこまで有効活用してシールドを張れた自分を褒めたいぐらいな。ある意味貴重な経験と言う奴である。まあ、そんなこと考えるんじゃなくて、と脳内を切り替える。 ユーノにとって、大切なのはそんなことじゃない。 そう、それよりも。 いや、何よりも大切なことがあるから。 「ほんとバカだよね、私。ユーノのためにって思って、私、自分の好きなことばかり……。 ユーノが休めなかったら、こんなことやってても意味無いのにね……。 きっとみんなそうなるって分かってたからユーノと一緒に出かけなかったんだよ。私って本当にバカで……」 「そんなことないよ。そんなことない」 強い口調で言いつける。そんなはずがないから。そんなことないから。 今日一日、いやそれより前。誘われてた日からそんな風に思ったことは無かったから。 「本当に誘ってくれて嬉しかったよ。とっても。誰かに一緒にお休み楽しまない?と言われたことが僕にはなかったから。言ってくれる人もいなかった。誰もが遠慮したり、あるいはそんなことを思うまでも無かったり」 「……ユーノ……?」 「だから、実はフェイトに誘われた時、一瞬フェイトがからかっているんじゃないかとすら思ったんだ。失礼だよね。こんなこと……でも、本気だって分かって。とっても……嬉しかった。 誘ってくれたこともそう。だけど、もっと嬉しかったのは……フェイトが僕を誘ってくれたこと」 「私……が?」 いつの間にか涙も止まっていた。 目の前のユーノの言葉にフェイトも止まっていた。ユーノの座るイスの前でただ、立つだけ。 「バレンタインの時、二人で話したじゃない?あの時から思ったんだよね、フェイトといると心が休まるなぁって。 なのはと一緒にいるときとも、はやてと一緒にいるときとも違う。フェイトだからこそ、きっとそんな風に思えるんだと思う。だから……嬉しかったんだ」 それが恋なのか何なのか、それはどうでもよかった。 ユーノにとって、フェイトは心が休まる存在。なのはは元気になるような存在。方向性が違う。 「だから、今日一日はとってもすっきりしたよ。エリオ君とキャロも可愛かったし。 フェイトも……その、とっても素敵で。のんびりとしてて。いつものフェイトだったよ」 あれは勘弁してほしいけどね、とそれだけは釘を指しておくけど。 それでも、そんなことがあってもユーノがフェイトの優しい性格が大好きだったから。 だから、満面の笑みでフェイトへ向き続ける。 「そう……かな?」 「そうだよ。君のおかげでここ一ヶ月実は調子がずっとよかったんだから?ね?」 「……ありがとう、ユーノ……でも……少しだけ、体貸して……」 その言葉で途切れて、フェイトがユーノの方へゆっくりと倒れてくる。事切れたかのように。 そんなフェイトをゆっくりと抱きしめて。 抱き締めて、抱き締めて。時間の流れが緩慢にすら思える時間はただ、一刻と刻んだ。 見る人から見れば、それは恋人同士が抱き合っているようにすら見える光景。 でも、そうじゃない。そうかもしれない。よく分からない。 まさに二人の関係そのまま、だった。 「ごめんなさい……ごめんなさいぃ……ずっとユーノのこと思って、だけど思えば思うほど 何か違うみたいで……だから!」 ただ、フェイトの悲壮にも似た声だけがそこには響いただけだった。 そう、ただ、それだけ。女神が運命を動かすことを嘆いたかのように響いた、その声だけだったから。 ―――――――――― 夜、最後に……とユーノが取り出したのは家庭用花火だった。 エリオとキャロも戻ってきていて。戻ってきたときにユーノに抱きついていたフェイトで一幕色々と騒動があったりしたのだが、それは言わないほうが懸命だろう。 曰く「私は困らないよ?」らしいが。ユーノとしてはとっても困るのだ。本当に。 カッコよい時はカッコ良いのに、普通のユーノはいつもの青年だった。ちょっぴり弱気の。 「実は数年前になのはに貰った花火なんだけど……」 「なのはに……湿気を帯びて無いよね、ユーノ?」 「いや、無限書庫においてあった奴だからその手の湿気には問題ないよ」 やけにフェイトの、なのはに、の言葉にトゲを感じたような気がするユーノだったが、まああまり気にしないことにした。さっきのこともあったし、実際にこれはなのはに貰った花火だったから。 無限書庫にずっといるユーノが花火をする、なんてこれぐらいしかないのだ。 ロウソクに火をつけて。 袋から紙花火(いわゆる普通の手持ち花火)を取り出して、エリオにキャロにフェイトにユーノ、と全員がそれを持つ。準備はすべて完了である。 「それじゃあ、エリオ君。一番最初ね」 「ぼ、僕がですか?」 「エリオ君がんばってー!」 「ふふっ、エリオ、大丈夫だから」 単に火をつけると火薬に引火して閃光が出るだけである。 もっとも、フェイトも最初に花火をしたときはだいぶ怯えた覚えがあったりして、あれはあれで苦い記憶で…… 「最初にフェイトがやったときは怯えていたらしいよ?ねえ?」 「えっ!?だ、誰から聞いたのユーノ!?は、はやてだねはやてしかない!」 あの時ユーノはいなかったし……とここまでユーノに問い詰めていたら事実ですというようなもの。 エリオの表情は複雑な心境を物語っていた。と、ロウソクの火で点火すると…… シュュュゥゥゥ!!という花火の燃える音と共に色華やかな光のレクリエーションが展開する。 「うわぁ……綺麗だ…… 綺麗ですよ!ユーノさん!フェイトさん!」 とっても凄いものを見たかのようにはしゃくエリオ。 エリオの手元の花火が鮮やかに光るのと同時に他のメンバーも火をつけ始める。 「じゃあ、私もやりますね!」 「も、もうユーノったら……私もしよう」 「あはは……じゃあ、僕も」 三人の花火も火がついて。それにはしゃぐ4人組。花火一つでも楽しみ方は色々で。 キャロとエリオは色々な種類の紙花火を試しながら楽しむ一方、フェイトはユーノと同じ花火ばかりを選んでやっていた。それなりの思いやりなのか、何なのか分からないところだ。 線香花火では予想通りと言うべきか、キャロが一番長く光を放ち続けていた。 勝ち誇ったようなキャロの後ろですぐに落ちてしまったエリオとフェイト。ユーノは二番手。 どうやら、『閃光』に関してはそれなりに自信のある二人も、『線香』には縁がなかったようだ。 で。 「えっと……ユーノ、それはなのはのじゃないよね?」 サイズは50cm。だいぶデカイ、というよりもそれなりの普通の花火サイズ。 さすがになのはが買うようなサイズじゃなかった。 「ああ、これははやてが置き場に困ったから上げるって言った奴だよ。使おうと思ったけど、やめたらしくて」 楽しみです、とワクワクなキャロとエリオにまんざらじゃないユーノの前にフェイトだけはちょっぴり冷や汗。 八神印の花火なのだ、あれ。フェイトがそれだけはやめよう、と昔言ってなんとか辞めた代物で…… 「あ、あのユーノ。それだけはやめたほうが……」 「フェイト、怖いの?」 「そ、そんなこと……な、ないよ?」 正直怖かった。八神印。何が起きるか分からない。 でも、ここでフェイトが引き下がってしまい……それで終わりだった。 「じゃあ、点火っと。全員非難! エリオもキャロも逃げないと大変だよ?ほら、フェイトも!」 「えっ!?う、うん!」 点火と同時に固定式の筒から離れる一同。そして…… シュー……スポンッ! 筒から豪快に上がった火薬。それが中空にまで到達したかと思うと…… 「れ、連鎖爆発……?」 「すっごく綺麗……ねっ、エリオ君!」 「だね、キャロ……すごいなぁ……」 一発のはずなのに、まるでスターマインのようにいくつもの花火が爆発する。 クラスター花火だったようだ。なんという無茶苦茶な本当の意味の合作である。 でも…… 「凄いけど……でも、綺麗だね、ユーノ」 スリップドレス姿に戻したフェイトが近づきながらそう呟く。 綺麗だからいいっか。はやてにも偶には感謝しないと、とフェイトとユーノは後日それなりのものをはやてに上げることを心に誓いながら。 「だね、フェイト」 二人、肩を並べてその巨大魔法クラスター花火を見る。 夏の情景のままの風景を。少しだけ涼しい夏の夜を感じながら。 注1 リリカルなのは原作者都築氏の言葉より