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2007 11,29 22:32 |
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「蒼穹の青空へ」さんの20万ヒット記念に贈ったSSをこちらでも公開しますね~ 魔法少女リリカルなのはStrikerS短編 ―1―「とある教導官の恋―黒い思いの幻と現実の中で―」 蒼き月が昇っていた、そんな繊細な空気を持った光景だった。 それは、甘い蜜のように。 それは、人を惹く甘美なまでの美しさのように。 それは、人が、あらゆる人が求めてしまう思いの果てであって。 それは……人が最も美しい状態ゆえに最も邪な思いを秘めた、闇と光の狭間。 人を『誰よりも』好きになる、その行為は。 揺らぐ思いが生み出した、幻と空夢。そんな思いを持ってしまうがゆえに、人は変わってしまう。 月の中、自分とあなた、二人だけの空間。 すべてを独占したいと思う邪な思いがあなたを欲しがるの。と自分は思う。 真っ白だった思いがいつの間にか色代わり、変わりに居座った思いは黒く、濁っていて。 いつの間にか、そういつの間にか私は知らないままに変わってしまっていて…… そんな私を前にあなたはなぜそんなに笑顔でいられるの? 機動六課内 宿舎 夜、24時間体制の夜組以外は誰もが寝静まる、丑三つ時。 彼女……六課の戦技教導担当の高町なのはは、悪夢で目が覚めてしまった。 「……本当に嫌な……でも嫌じゃない悪夢……」 意味が通らない言葉だった。でも、嘘ではなかった。 夢が本心を写すなら、なのはは、それを嫌じゃない悪夢、というしかあらわすすべが無かった。 唯一、なのはが良かったと思うことが今日はフェイトが捜査任務で隣にいなかったことぐらい。 ……恐怖と欲情を混ぜたような顔色を彼女に見られれば心配させることは間違いなかったから。 「ユーノ君……私、どうかしちゃったのかな……」 夢の中、なのはが貪欲なまでに求めてしまった人の名前を声に出してみて。 ――なぜ、彼なのか。 夢は今回が初めてではなかった。 前から確かに時々ではあったが彼とまるで「恋人」のようにしている自分がいる夢を見てしまう自分がいた。 どれだけ…どれだけ、自分に言い聞かせても、それは止まるどころか更に悪化していく。 彼を、親友と思っている思いが、まるで塗りつぶされていくように。 そう思うと、なのはは自分が怖くなって仕方なくなるのだ。 今は夢、だけどいつか、もしユーノの前で……この邪な思いが止められなくなってしまうと思うと。 落ち着くために台所でインスタントコーヒーを入れたなのはは、それをゆっくりと自分の口元へと運ぶ。 飲めば眠れなくなるぐらい、なのははコーヒーに良くも悪くも弱かったが…… 正直、今眠ってしまえば再びあの夢を見そうで怖かった。 「……私、本当にどうかしちゃったのかな。それとも……」 それが本当の恋なのか。 信じたくは無かった。初めての男の子の親友をそう見てしまう自分が。 ホテル・アグスタの一件で、既に自分はおかしかったのかもしれない。 彼と会っただけで頬を赤く染めてしまった、あの時に既に。 でも、なのはには引けない一線があった、自分はもうユーノと同じ場所にはいられないという、それが。 自分のサポートをしてくれたユーノ。 サポートとの連携は十数回しかなかった戦闘のほぼすべてにおいて完璧な手助けを彼はしてくれた。 でも、なのはは更に高みを望み、ユーノは無限書庫で書庫整理をすることを望んだ。 「もしも」として、自分がユーノの横で無限書庫の整理を、ユーノと同じ場所を希望していたらどうなっただろうか。 もしもことは分からないが、今よりもユーノと近くで、もっと居られたのは間違いない。 でも、今こうして自分はここに、機動六課の教導官としてここにいる。 「……煮詰めても考えは……決まらない、か……」 『人の夢と書いて儚いって言うんやでー』といっていた読書好きのなのはの親友であり 部隊長である八神はやてを思い出す。 彼女をなのはは親友であると思っていると同時に、一人の女性として尊敬していた。 はやての家族とそして自分の夢、両方を持とうとして、成功している彼女を。 何より、今の自分を見せられそうな数少ない女性だったから。 ―――――――――――――――――――― その日、八神はやては部隊長として夜間勤務中だった。 部隊長は基本的に昼勤務であって夜間勤務は行なわないのだが、ホテル・アグスタにおける任務から シフトが崩れてしまい、そのシワ寄せを無くす形で、一日中勤務を彼女はすることになっていた。 そのため、まともな睡眠はとれないまますでに24時間以上が経過。はやてもこれが終わったら睡眠やーと心を決めていた。 それでも、仕事は早めにとはやては自分がするべき仕事を早急に済ませ COC(Combat Operation Center 戦闘指揮所の意)で一人、部隊長なのにも関わらず当直勤務をしていた。 先ほどまでシャーリーがここで補佐をしてくれていたが 1時間ほど小休みをするようにはやてが命令したためにいない。 だからこそ、一人でCOCにいたはやてはゆっくりと考え事に耽っていた。 「さてと、暇やし本でも読むとしよか…『戦争のテクノロジー』とはすずかちゃんもこの頃は難解というか…… 偏った書物を送ってくるなぁ。前回はダ・ヴィンチ・コードで、あれもあれで難解やったけど」 本を読む、はやてにとってそれは昔からの習慣であり、趣味だった。 まだ、小さい頃は絵本から始まり、小学生の時には文学書全般は読み始めていた。 家族が出来、管理局に入って捜査官を初め、六課部隊長になっても未だにやめていない、はやての隠れた趣味。 それは自分をこの世界に誘ってくれたものだから。 足が動かなかったころの自分に、本というものは夢をくれたから。 だから今も自分は本を離せない。心のオアシスとして、自分が自分である証拠として。 「にしても600ページ超えのハードカバー、さらには重さが1キロ超えるって… まあ、管理局って軍隊みたいやけどこれはちょっと違うような気がすんよ……すずかちゃん」 そう思ってみるものの、それでも一応本の中身を見てしまうのはもはや癖の領域かもしれない。 中々中身は充実しているようで、これはこれで…などと思ってしまう自分は管理局に染まりつつありそうや となんだか変な感じではあったものの送られてきた本をゆっくりと見始めることにしたはやて。 本来は、COC当直勤務で本を読むのは規律違反に等しいのだが はやては本を読みつつも精神はCOCのレーダーにちゃんとつけているつもりだった。 まあ、反応があればアラートが鳴るように設定して安心感もあったし 非常事態に対する処置はできる核心もあったゆえの読書だったが。 ゆっくりと自分の、自分だけの、自分1人の時間を過ごす。 よく考えれば、自分1人、というのも珍しく感じる。 今まで、はやての周りにははやての騎士たちがいた、六課設立後は自分たちの部下がいた、親友も今はいる。 その前、まだ足が動かなかった頃は1人ということが多かったのに。 だから1人だと分かっているのにはやては、イスを寄りかかると声に出して思いを語る。 「ひとりっていうのは寂しいもんやな……実際にひとりになってみないと分からない寂しさなんやろか……」 「なら、私が今日は一緒にいよっか?」 思いがけなく返事が返ってきた。 深く寄りかかったままイスを回転させてドアの方を見ると パジャマ、しかもキャミソールのそれを着たままのなのはが立っていた。 規律上でも問題なのだが、なおかつ顔色も良い感じはしなくて、はやてはその雰囲気と空気が食い違っているような感覚に襲われた。 なにか、まるで車の傷を隠そうとして車の色のペンキをつけてみたものの、周りと比較すると変な感じが残るような。 人と接する機会も多く、人の悩みを人一倍感じやすかったはやてだからこそ分かるような、そんな空気だった。 「な、なのはちゃん?一応、まだ午前3時20分やで?まあ、とりあえずそのイスにでも座って話でもしよか?」 読んでいた本にしおりを挟み、机の端の方に退けてなのはに隣のイスに座るように薦めると なのはも、ゆっくりと座ってはやてと向かい合った。 「そういや、なのはちゃんと二人で話すことって今までも滅多に無かったなぁ…… で、その深刻そうなのにそれを隠そうとして余計に私には深刻に見える雰囲気をかもし出してる なのはちゃん、どないしたの?」 「え、そ、そんなに……深刻そうな顔してる、私?」 「まあ、新人たちから見れば大して変わらへんように見えるし、フェイトちゃんが見ても何かあったかぐらいは気づきそうやけど そこら辺は私の勘みたいなもんやな。 フェイトちゃんはなのはちゃんに関しては過保護みたいな感じがあるけど、そういうところには疎いところもあるし」 まあ、一番の理由はそんな姿でCOCに来たら誰だって何かあると考えるんだけど とはやては思ったが言う必要はないだろうと言うことは避けた。 ただ、なのはの今の反応は、明らかに深刻な悩みがあると言っているようなものだった。 「そっか……やっぱりそう見えるのかぁ……」 なのはは一言、そういうと……ゆっくりと深呼吸をした。 その間、はやても声や物音を出さず、ただCOCの奏でる無機質な電子音のみが部屋に木霊する。 なのはも、深呼吸をしてここまで来たのだから、と思う。 あまりにも気が動転していた、それだけは確かで、本当なら昼ごろにはやてに相談しようと思っていたのに夜中にCOCに来てしまった。 でも、それでもはやては嫌がることもせずに入れてくれて、その心遣いにやっぱり感謝するしかなかった。 心に決めて、なのははゆっくりとことの問題を話した。すべて、隠さず。 夢の中の話、日に日におかしくなっていく自分、そして自分の信じたくない思い…… 「……おかしいよね、私……時々、何もかも捨てて、求めたくなっちゃって…… 自分の夢だった教導隊、夢に走って何か大切なものを置いてきてしまったような気がしてならないの……」 そう、大切な、何かを。 今、こうして仕事をして、ちゃんと新人の成長に喜びを感じ、順風した人生を送っているはずなのにどこかねじれた感覚。 それは、まるで今こうしている生活が幻に見えてしまって、一度見えてしまった幻は消すことは出来なくて。 「今、こうして教導官として、1人の人間として管理局で平和のためにがんばっているのに その世界がすべて幻のような存在に見えて仕方ないの。 夢の世界が現実と幻との境界を曖昧なものにしている感じで…… ふと気づいたら、あの人の…ユーノ君のことを考えていて。」 なのはは怖かった。一人の人に恋していたことが。 それが、今まで自分が信じてきていた世界を否定するようで。 自分が選んだ道を走って、置いてきてしまった人で。 そして、置いてきてしまったあの人がいないこの世界そのものがすべて、現実から幻に見えてきてしまって。 なのはがすべてを話したとき、はやても何もいえなかった。 幻か、それとも現実か。 そんなこと、はやてだって分からないのだから。 今、こうしている現実は本当に幻でないか、などわかる人がこの世にいるのだろうか。 幾分か過ぎて、ふいにはやては口にとある言葉を出した。 「なのはちゃん、一つだけ、それ以外のすべてを捨てて、ただ一つだけ質問してええか? ……なのはちゃん、ユーノ君のことが心から好きなんよね?」 沈黙のまま、ゆっくりとうなずくなのは。それを見てはやては続ける。 「なら、それでええんやないか? 幻か現実か、置いてきてしまった人か、そんなことよりも大切なのは思いやと思うよ? 例え走ってきて、置いてきてしまった人でも、迎えに行けばええ。 それが……その思いすら幻かもしれへんけど、それでもそれを現実として生きてるんよ、私もなのはちゃんも」 幻がどんなものでも、それを現実として今までなのはは生きてきた。 夢のような、ユーノと会ったあれ以降、自分の中で幻と思っていたことが現実に次々となった。 それを思い出して、なのはも思った。今、そう思う現実を。 「ちょっと偉そうに言ってみたけど8割ぐらい本の受けうりみたいなもんやけどな」とはやては付け加えると ゆっくりと本を手に取り直して、続ける。 「現実か幻かなんてそんな元から強い境界線があるわけでもない、この世界は魔法すらあるんや。 それに比べれば、幻と現実が明快に区別される必要がどこにある? なのはちゃんがユーノ君のこと、好きならそれはなのはちゃんにとっての現実やし、現実と信じていればええ。 それとも、今の教導官としての現実も、ユーノ君を思うなのはちゃん自身の思いも、すべて幻だと思う?」 「そんなことは……ないけど」 「なら、何も迷うことは無い。今、ここにあるのが現実や。ユーノ君が好きで愛して。 そのことばかり思ってしまって。過去のことを思うのは勝手や。 でも、それこそ今を幻と思いたい、なのはちゃんの願望に過ぎへんのかもせーへんよ?」 過去、パートナーと言いつつもいつの間にか手放してしまった彼に対する罪悪感。 あえて、それをはやては言わない。 多分、それがなのはの彼を求めている思いと、今こうして六課で充実した生活をしていることへの罪悪感を生んだ思いかもしれないけど それを言う必要は無いような気がしたから。 COCでの任務中にこんなことを言うことになるとは思ってなかったが、何よりはやては嬉しかった。 そういう相談をなのはがフェイトではなく自分にしたことに。 なんてことはない、はやてもフェイトと変わらずなのはの事が親友として好きで、心配なのだ。 「そう……かな?」 「そうやそうや。別に悩むことはないと思うで?人の夢と書いて……」 「『儚い』でしょ? 前もはやてちゃんから聞いたよ?」 「こりゃまたやられたなぁ…でも、これは言ってへんと思うけど、儚いのは夢であって、現実やあらへん。 今、こうしている現実は、誰よりも人の思いを公平に見てくれるもんや。例え、歪なものでも」 正直、なのはがユーノのことを好きなことは、はやてはだいぶ前から分かっていた。 しかし普通の恋かと思っていたら、話しを聞けばどうだろうか、もう甘い恋というよりも味濃い愛だ、とはやてには思えた。 それが歪な恋かは分からないしユーノがどうするか…個人的にも非常に興味があったが、とりあえず…… 「とりあえず、なのはちゃんの思いは現実だと思うんよ。幻なんていうものは人が認めたくないものの対象や。 なのはちゃんが認めたくないのは……」 「私が認めたくない思いかぁ……」 分かっていた、ユーノへの思いだと。しかも、邪のような思い。 なのはは、それが怖くて。でも、それだけでは何も終わらなくて。 だから、一歩進むしかない。はやてに話してみて、すっきりしたなのはは、そう思えた。 「明日、ユーノ君のところに行ってみようかな…あ、でも時間が……」 「大丈夫大丈夫、私が変わりに教導の方はやっておくからなのはちゃんはゆっくりと無限書庫にでも行けばええよ」 「で、でも悪いよ、はやてちゃんに」 「さっきみたいな状況が続いて、仕事に支障をきたされる方が私としては迷惑や。 部隊長として、組織の中核たる人間のコンディションが悪いことは見逃せへんし。 それに『なのはちゃん、自分の思いに気づいた記念日』として今日ぐらい休みにしてもバチは当たらんよ」 ――いや、それだとバチ……当たりそうなんだけど…… というなのはの心の声は言っていたが、満面の笑みで言うはやてに悪いし、何より…… 会いたかったから、彼に。求めて、仕方ないほどに求めてしまっている彼に。 「ありがとう、ならその話に甘えさせてもらうよ?」 「構わへんよ。なのはちゃんのためや!私もがんばったるで~」 「ちょっと、はやてちゃん、夜夜!夜なんだからそんなに大声出すと迷惑だよ!」 …かつて、そう…かつてその笑顔と純粋な思いと、何より現実から未来を見つめていた彼女に…… 自分を、呪われたたけの運命から、幻のような今の現実へと救い上げてくれた彼女… 高町なのはという少女と、それに魔法と出会えるきっかけを作ったユーノ・スクライアに対するちょっとした恩返しをしてあげるぐらいはええよね? 助けられて、今こうして幸せな現実を過ごしているのはなのはだけではなく、はやて自身も幻のような現実を過ごして…… しかもなのはのおかげで過ごしているのだから、と。はやては心の深くで思った。 ただし、現在28時間連続勤務中。彼女の睡眠がいつになるかは分からない。 それも……恩返しのためや、と思って仕事をするしかないはやてであった。 一方なのはは……既に今日という日のそれを、もしかしたら大きく変わるかもしれないこの日を思っていた。 自分と、彼との関係が…どっちにしても大きく変わるであろう日を。 「もし、ダメだったら、はやてちゃんは私を慰めてくれる?」 「ダメなんてことは、私の思う限りはあれへんと思うけど……睡魔と闘いながら慰めてあげるよ?」 「睡魔って…はやてちゃん、変なこと言うね?」 「…一応、私にはそろそろ死活問題なんやけどね……」 とにもかくにも時間は午前4時30分。夜明けはもうそろそろだった。 幻と現実との……何より、心からの思いとの決着をつける、朝はもうすぐ。 PR |
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