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それはある意味、偶然と必然の産物だった。 無茶をする彼女を見てどうしても助けたいと思った彼の努力を意味するならそれは必然。 でも、無理と言われていたそれを実現したのは偶然。
無限書庫の書物の中で探し、考え、組み合わせて。
彼女が一度怪我をした後から、それはゆっくりと彼が創り続けてきたもの。 無茶をして欲しくないから。そんな思いでゆっくりと、でも着実に作り上げたもの。
魔力の絶対値では到底及ばない。でも、彼にはデバイス無しで魔法を発動させるほどの 魔力の制御と管理に関しては自信があった。
結婚をしようとも、何をしようとも。彼にとって彼女は助けたい象徴で。 JS事件の後。幸か不幸か。彼女が全力全開を出した後で、いやだからこそ。
彼が、彼女を守る衣を生み出せたのかもしれない。
時空管理局・機動六課
JS事件が解決しても、機動六課は解散しない。 もともと運用期間1年の組織は、逆に言えばそれまでに事件が解決してもなお続くわけで。
そんなわけで、解決しても六課の訓練に限りなどなかった。 まあ、あえて言えば訓練がより過酷になったぐらいだろう。完全な余談の域だ。
しかし、とはいっても十分Aランク以上に近い新人、と呼ばれなくなることも時間の問題の4人の教導官である 高町なのはは困っていた。
教導、というのはそもそも精鋭部隊との戦闘を受けさせることで、自分が知る以外の戦い方を知ることにある それは一般の部隊の中にあって、エースやストライカーを輩出するのにもっとも便利な方法である。
なのは自身、フェイトやヴィータと戦ったことが元で現場生え抜きのエースストライカーとして教導官を今やっているわけだ。 つまり、戦闘とは常に新しい技術や戦術、戦略を知ることにこそ意味があるわけだが……
連日、なのはやフェイトたちと行うそれではさすがに限界があった。 特にサポート担当の人間が六課にはほとんどいない。キャロには教えないといけないわけだが、シャマルさんぐらいでしかも、シャマルさんは医師任務に従事している。つまり、非常時以外出てこない。
サポートの能力をなのはは、ある意味誰よりも理解しているつもりであったし それゆえにサポートをする人がいないがゆえに訓練でもサポートをする人間への攻撃を軽視する節が JS事件でも見られた。クワットロのような人間は最も危険視するべき敵であるが あの事件では中々しぶとく生き残ってしまったのだ。サポートが後方にいることによって攻撃をしずらい典型であろう。
「うーん……といっても、私もサポート、トラップ系は得意じゃないし……」
バインドやクリスタルケージもなのはは覚えていたが、本分は今でも砲撃魔道師。火力で敵を圧倒し、優勢を得るのが基本な、それだった。
うーん、と唸りながら自室で考え事。ベッドでは先にヴィヴィオがフェイトと一緒に寝ていた。 ちなみにヴィヴィオとフェイトが広さを大きく取って寝ているため、彼女が寝る場所が無いのは、なんていうか彼女の自室じゃなかったっけ、と疑問詞をなのは自身問いかけたかった。
実際、サポート要員を管理局は軽視していた。 サポート系魔導師自身少ない。これは使い魔を使えるほどの優秀な魔導師ならともかく……もっとも、使い魔もまた主君に似た魔法性質を持つため、純粋な意味でサポートを使える魔導師はやっぱり少ない。
なのはには、心当たりというか、彼女の旦那さん(ユーなのSS・だって家族ですから参照)がそんな珍しいサポート系魔導師だったりするのだが、彼以外に心当たりがいなかった。
教導隊で、コンビを何人かやったこともあったが、そういえばユーノ君ほどサポートが有能な魔導師はまったくいなかったっけ、と思い出す。それにあわせてなのはの戦闘スタイルも変えたわけだが、結局のところ砲撃魔導師であるなのはにあうタイプというのはあまりいないのだ。
そんななのはが教えた新人達は、結果的になのはが教えられる範囲では立派になったが……それ以外を知らない。そう、かつての自分のように。それでは、不測の事態に柔軟に対応できるか、は怪しかった。
「……この時間だと、夜食でも食べて仕事追加かな?」
時計は午後11時。ここで頼みごとはさすがに悪いかなぁ、とは思う。 でも、なのはにとってこの問題を解決できるのは彼だけで……今度、夜食を作って持っていってあげないと、と夫のご機嫌取りの方法でも考えつつ連絡のためのホットラインへコールをする。
ちなみに、なのはの予想通り、おにぎりを口にちょうど運ぼうとしていた無限書庫司書長がホットラインに出てきたのは、ご愛嬌である。
「あー、ユーノ君。夜食だからってバランスの悪い食事はダメだよ?」
『あー、ってこのホットラインはなのはかぁ。何事かと思ったよ。 でも、仕事しながら食べられるものってそんなに多くなくてさぁ。食事に関して朝・昼・夕はしっかりしてるからこれぐらいはいいかなーって?』
「ダーメ♪」
満面の笑みで否定するなのは。彼がこう無茶をすることは常ではあるのだが、一応突発的にした、とはいえ親友以上の関係であるのだから心配するのも当たり前で。
『あはは……それで、ホットラインでいきなり繋いできたのはどうかしたの? 後ろでベッドを独占しながら、ヴィヴィオを抱えている運命の女神様への愚痴でも?』
「あー、それが無いわけじゃないけど……」
運命の女神様(the Fates‐フェイト)は、実際にベッドで気持ちよさそうに寝ていただけに、なのはが仕事をしているのに……となのは本人、ちょっぴり思っていたりする。まあ、フェイトが聞けば「私はなのはが心配しなくて良いって言ったから」というだろう。まあ、そういったなのはだったが、いざ気持ちよさそうに寝ている姿を見るとふんわりと思ってしまうわけだ。
と、それは置いておくとして。 なのはは、意を決するとウインドウの先でおにぎりを食べながらコンピュータ操作をしていたユーノにお願い事をした。
「そのね……今度、一緒に教導してくれないかなって」 『……いきなりだね、なのは?』 「だって、サポートが凄い魔導師ってほとんど知らないし、ユーノ君ならその……夫だからいいかなって」 フェイトに聞こえていないか細心の注意を払って、なのははユーノに言葉を届ける。 内緒に出来るだけしておきたい。言うにしても色々煩いはやてがいるからの対処だった。 『つまり、なのはが結婚して分かったことは、夫は使えるだけ使えってことと』 「うー。いじわるじゃない、ユーノ君?」 『うそうそ。ちゃんと手伝わせてもらうよ。数日後のうちに空くはずだから』 手元と資料を確認して優しい声でそう告げるユーノにほっと一息。 『一応、無限書庫で色々と勉強した分、魔法のレパートリーは増えてるし』 「そ、そうなんだ」 意外だった。ユーノ君って、無限書庫で仕事ばかりと思うところがあるなのはにとっては特に。 でも、ユーノは健やかな顔でただただ、安心している様子で。 『補助系。インクリース系とか、幻術とか、そういうのはある程度勉強したけど』 「ユーノ君、それ凄すぎだと思うのですが……」 なのはの教導官としての性格がキャロかティアナの教師として欲しいところだった。 でも、ユーノはそのままの表情でさらっと言うのだ。自分には厳しい言葉を。 『でも、色々と僕もがんばっちゃったり……そうそう、とっておきの魔法もあるよ?』 「と、とっておき?」 そうやって尋ねるとユーノが意味深い笑みを浮かべた。 『うん。とっておきのね……それは……その時まで内緒』 「な、内緒なの!?ユーノ君、性格ひねくれたよー、間違えなく」 『そういわれても困るんだけど……とりあえず……僕はOKだよ、なのは』 ――――――――――
数日後。 あの日以来、ベッドをトリプルベッドに変えてもらうようにアイナさんに頼んだなのはは朝の訓練を4人に終えた先で一つ話を加えていた。
「そうそう、今日の朝食後の練習だけど、最後にちょっぴりいつもと違った練習するから」
「いつもと違った、ですか?なのはさん」
恥じらい疑問を出すことはよく理解する理解力のある成長する子ということが目で分かるがんばり屋こと、スバルはレイジングハートをスタンバイモードにしたなのはに向かってそんな疑問詞で問いかける。
「そうだよ。ちょっと六課外の人に来てもらって、その人と私の二人に四人で戦ってもらうの」
「六課外というと、やっぱりなのはさんのいた戦闘技術教導課の……」
戦闘方法の研究を日夜テーマとする管理局きっての精鋭部隊こと戦闘技術教導課の中核組織戦闘技術教導隊。スバルの疑問への答えを出したなのはに追加の質問と期待とちょっぴりの驚きで問うたのはティアナだった。
彼女は執務官希望なので、そういうエースとの戦闘で盗めるもの技を盗みたいのだ。 特になのはのいた戦闘技術教導隊はまさにエース・オブ・エースの集い。常識外れの連中がうようよする、と言われる一般局員からすれば本当に、悪魔のような組織だったりする。
だから、なのはのことを一部で「悪魔」や「魔王」だ「魔女」と呼ぶ人もいるのだが……
その中にあってはむしろなのはは、真面目で普通なタイプだったりする。
そんな教導隊の中には航空魔導師で地上魔導師を朝飯前といいつつ適度に次々と撃墜し、あまつさえ次元潜行艦すら撃沈してしまう異常な人間もいる。 そういう意味で、なのははまだ、まともな分類だ。ちゃんと教導が出来ている。教導隊といいつつ、ちゃんと教導が出来る人間は半数いるかいないか。確かに人外魔境扱いされてもおかしくない組織だ。
と、なのはは違う違うと手を大きく振ってそっち関係の人じゃないと否定する。
「教導隊の皆の半数は教導任務で忙しいし、半分はある意味趣味な戦闘技術研究に忙しいから」
まあ、研究というよりあれは趣味だろうけど、と心でツッコミを忘れないなのはだった。
「えっと、それじゃあ誰なんですか?」
「いい質問だね、キャロ。この前、ホテル・アグスタでエリオとキャロは見たと思うけど ユーノ・スクライア司書長だよ。時空管理局の統合データベース無限書庫のトップさん。 あー、私の魔法のお師匠様と言っても間違えじゃないかな?専門分野がまったく違うけど」
それを聞いてエリオとキャロは記憶の中にいた優男……もとい、優しそうな男性を思い出す。 ああ、あの人かぁ、と納得するところもありながらあの人がなのはさんの……となんだか予想外なことにちょっとだけびっくりしていた。
一方、その時はちょうど場の悪かったスバルとティアナは別の意味で驚いていた。
「無限書庫って、管理局の管理世界情報を網羅するっていう、あの無限書庫ですか? しかも、司書長って……」
「うわぁ……ほんと、六課って凄かったのね……」
見た目が見た目なので馬鹿に見えるが、スバルはこれでも主席卒業の秀才。 ティアナは言うまでもなく、だ。無限書庫の見方は人によってまちまちなのだが、二人はとっては重要部署に近いものがあった。 しかも、それでなのはの魔法の師匠、と来た。スバルは俄然興味が湧いた様子で目が輝いていた。 まったくこの子は……と思いつつも、確かにどんな人かしらと考えてしまうところ。ティアナもスバルに毒されているのは間違いないだろう。
「まあ、ユーノのおかげで無限書庫が今の状態になったのは事実だからなぁ。っていうか、なのは。 あたしはそんな話しきーてねぇーぞ。ユーノと、なんて」
「あはは、ヴィータちゃんごめんね。時間が取れる日が分からないってユーノ君がいうから日程には組めなかったの。今日は大丈夫らしいから、ならって思って」
無限書庫は忙しい。整理した書物をデジタルデータベース化することで、資料調査はかつての数万倍以上のスピードでできるようになったものの、まだ未整理の書物が多く、また毎日数百以上の書物が運ばれて追加されるのだ。仕事が終わることは多分無いだろう。追加が続く限りは。
と、それじゃあちゃんと朝食を取るように、となのはが言ったところで新人メンバーはその訓練のために食事に走って、残ったのは朝訓練を一緒にしていたなのはとヴィータにフェイトだけ。
「ごめんね、ヴィータちゃん。今日の日課決まってたかもだけど……」
「まあ、あたしはいいけどな。ユーノの方が時間の無い仕事しているのは事実だからな。 でも、ユーノとなのはじゃフェイトとなのはよりも強くねぇーだろ? フェイトもそう思わないかぁ?」
「えっ、えっと……どうだろう。よく分からないかな、私は」
ベッドを占領した占領軍総司令として、なのはから夜中に頬を抓られたフェイトさんは控えめにそう言った。 ちなみにあの日に続いて今日もなのはは、フェイトの寝相とヴィヴィオの抱きつきで眠りが浅かったりする。 最初は良い案だったと思う三人で寝る、だったが実はフェイトちゃんはエリオとキャロと一緒に過ごした方が良かったかも、と思ってしまうところだ。
「だって、ユーノの奴は空戦Aランクだろ?フェイトは限定でもAAランク。解除すれはSランクだろ。 まあ、解除するのは難しいけどさぁ」
「そういう意味では、なのはとユーノだけだと、だいぶ成長してきてAAランクに近づいている四人とはやっぱりまけちゃうかもしれないよ、なのは……って、なのは?」
ヴィータとフェイトが冷静に戦力を分析していた中、なのはは普通にシミュレーションをしていた。 もちろん、ユーノと二人でやるコンビネーションのシミュレーションなのだが……
「おいおいおい……なのは、こりゃ……」
ウインドウのデータが何を示しているかを理解したヴィータが呆れるような声を上げる。 ウインドウには戦闘予測が流れ、その大半がちゃっかり勝利を宣言した。しかもユーノとなのはで、である。
「ユーノ君と話してね、意外とユーノ君、この数年間で色々と魔法覚えていたらしくて。 だから、このバリエーションなら、って思ったんだけど」
「ただでさえあれだけの魔法の緻密さをデバイス無しでやるユーノって凄いけど…… 新しい魔法覚えていたんだ……」
そういえば、小耳に挟んだことがあったっけ。とフェイトはあることを思い出す。 ユーノが新しい魔法を編み出すために色々と試行錯誤をしていた、という話を。
これだけ魔法技術が定義化された時代に新しい魔法を安易に生み出すことは難しい。 基礎から編み出すと成ると特に。だから、それは単なる噂話と思っていたが、そう言われると何かありそうだった。
「でも、この戦い方はあまりしてないからね……良い練習になると思うんだけど」
「まあ、確かにお前ら二人ならこの戦い方をしたらわたしだって勝つことは難しいつーか、無理だろうけどなぁ」
戦闘というのはいつも「勝利」を要求されるものばかりではない。 とはいっても、とその戦闘形式に呆れ半分、まあ新人頑張れ半分という気持ちになってしまったヴィータだった。
と、そんな中にさらに一人話しに割って入ってくる。
「まあ、それよりもさらに難しくなると思うけどね」
「ユーノ、いきなり出てくるな、驚きだろうが」
気配が感じないって、とサポート系と得意とすることのか、それとも影が薄いの暗示なのか、ヴィータの言葉にそんなことを考えてしまうフェイトだった。実際にフェイトも影を感じなかったことはそれだけ凄いことを意味はするのだが、そう感じないのはなぜだろう。本当に不思議だ。
「ユーノ君、お久しぶり」
「直接会うのはアグスタ以来かな?」
とそれだけ言うと早速ウインドウを共有モードにして作戦会議を始めながら歩き始める二人。 こいつら、息ぴったりだなーとヴィータは言いたかったが、言うだけ無駄か、とそのまま無視を決め込む。
「私とフェイトちゃんだと、どっちかというと力押しの電撃戦になるからね」
「君達二人なら、それがベストだからね、なのは」
「つーかブリッツクリークぐらい勝手にやってろよ、お前らは」
なのはとフェイトは互いに二人で役割分担をすることで、効率的な攻撃をする意味で最高のパートナーだった。 うーん、と自分の前に出されたウインドウを眺めながらそう実感するフェイトだった。 砲撃のなのはと機動攻撃のフェイト。前線をフェイトが切り崩してその支援をするなのは。完全な役割分担。
それが二人の強みでもある。
それはなのはも教導官として理解していたし、だからこそフェイトと一緒の時は砲撃に徹していたのだ。 とはいっても……
「でもね、ヴィータちゃん。フェイトちゃんは知ってるかもしれないけど……」
そんな前置きをした上でなのはは大胆に一言。
「私が元々やっていた戦い方は、ユーノ君と一緒にいることを想定していたものだから これでも負けるつもり、ないよ?」
――――――――――
午前訓練。 主にいつもどおりの個別訓練はユーノが顔を出している点以外は何も違わなかった。
最初になのはが説明した時、初見だったスバルとティアナはどういう能力なんだ、と期待したものの。
「えっと、なのは教導官から紹介されたとおりに無限書庫司書長のユーノ・スクライアです。 あー、一応最後に取ったのは空戦Aなんで、あまり期待されても困りますけど、できるだけお役に立てるようにがんばりますので。えっと、サポートが専門なので、キャロの魔法ならある程度教えられる、かな?」
「ユーノ君なら、大丈夫だよ。うん」
あー、のろけですか、のろけなんですね、分かります。と一同が言いたくなるような雰囲気の中、午前の訓練は始まり、言った通りにユーノはキャロへの魔法指導をすることになった。 そのため、フェイトとエリオは一対一で指導することになって、その分高速行動の原則を、フェイトちゃんのせいで眠りが浅い、といわれて少し気が立っていたフェイトにエリオがびっしり叩き込まれることになったが、それは気にすることじゃないだろう。
一方、ユーノとキャロは一回じゃ教えられることは少ないから、と直接魔法以外の話しをしていた。
「防御というのは、どういうものがあるか知ってるかな、キャロ?」
「えっと、そのフィールド系にシールド系に……」
「そういうことじゃないんだ。戦術の上での防御。戦いの中での防御、というものだね」
「あの……よくわかりません」
分からない、といったら怒られるかも、と少し怯えながらそう返すキャロに しまったかなぁ、と後悔した様子でユーノは声を柔らかに返した。
「別に大丈夫。なのはも最初はさっぱりだったから」
「そ、そうなんですか?」
「うん。防御って言ったら盾とか、ファイアウォールとか言い出したからね、なのはは」
コンピュータ系もかじったなのはらしい返答である。 そんな感じで二人の練習も進んで…… 午前の訓練最後。午後はこの訓練の後で疲れるだろうということで一斉休暇ということになっていた。
市街地を模したフィールド。ホログラムを利用した沿岸部の訓練場。 いつも通り新人たちことフォワード陣は準備を終えていた。キャロだけがちょっぴりの緊張とユーノに言われたことを思い出しながら何か唱えていたが。 スバルはいつも通りにやれば、と意気込んでいたし、ティアナもあの二人ならなんとか……と自信があった。 なのは疑惑「AよりもAAに近いぐらい」とスバル、ティアナ、エリオは言われていた。ちなみにキャロは「ほぼA」だったりする。 それに比べてなのはの制限もAAランク。加えてユーノはAなので、数も能力も上、ということになるのだ。
これなら……とティアナが自信を持っていてもなんらおかしくなく、エリオもがんばればもしかして、と思っていた。キャロだけが、ユーノに言われたことを思い出して不安がっていた、というべきだろう。
「どうしたの、キャロ?」
「エ、エリオ君。ううん、なんでもないよ?」
心配したエリオが不安そうなキャロに声をかけたものの、問題といった。 この時点である意味勝敗は決まっていたのかもしれない。
なのはが戦いを普通にするので、フェイトが審査をすることにちなみになっていた。野次馬根性丸出しの部隊長が観覧しているあたりでこの部隊の雰囲気が分かるものだ。
「じゃあ……「ちょっと待って」って、ユーノ?」
準備もできてはじめようとしたところで、ユーノが声をかけてきて、タイミングを邪魔されたフェイトが不満そうな声を出す。誰だっていきなり声をかけられて中断されればこんなものである。 いきなり何、と言う表情でフェイトがユーノのにらめつけるが、さらっと彼は一言。
「いやね……無限書庫司書長の権限で、なのはの制限ランク解除1ランク承認」
《Confirmation》
ユーノの言葉とレイジングハートの確認メッセージとともに制限がなのはの魔力制限が一気に解除される。
「……って、私以外に解除できたんかい!」
「いや、クロノと同じく提督権限だから、君の制限解除申請も出来るし、なのはならいつでもフルランク申請できるんだけど……AAA以上にすると色々問題かなって思って」
ねぇ、となのはに当たり前のように言うユーノだった。なのはも普通に分かっていたらしい。 まあこれなら勝てる可能性もあるわ……とはやての方はなんだか、どうでもよくなってしまった。
フォワード陣は少しびっくりした様子だったが、それでもまだ勝てる可能性はある。 ユーノさえ落とせば、1対4で圧倒的優勢なのには変わらないのだ。 ティアナとしては、最初は様子見。 行動予測の後にスバルとエリオを前線。後方にキャロと自分で火力支援して防衛線を突破する、という作戦案を立てていた。
と、続いてティアナたちからだいぶ離れた……ほぼこの広大なフィールドの端から端ほど離れたなのはから一言。
「今回の訓練形式は、単純だよ。私達を全滅させればフォワード陣の勝ち。できなければ私たちの勝ち。 時間は長く取って30分。時間以内に私達を倒せたら、そうだねAAランクのこの場の4人全員に進呈しても問題ないぐらいかな?」
いいよね、とはやてに目線を送るとヴィータから告げ口をされたはやては笑顔で「あー、それならかまわへん」と承諾の言葉。フォワード陣はそのあっさりな言い方に驚き、続いて……絶対に倒す、という意気込みがわいて来ていた。
で、完全に忘れられた審判は場が落ち着くのを見てから、ゆっくりと言い放った。
「えーっと、審判のためにフィールドに出てきてる私の意味が無いような…… それじゃあ、30分防衛線突破殲滅訓練、開始!」
そう、防衛戦を。
―――――――――――――――
なのはさんの砲撃来るわよ!、と全員で散開したフォワード陣。 ティアナは冷静にウインドウを開いてなのはたちの方を監視していた。なんせ、端から端。 なのはさんが全速力で来ても……と、細心の注意を払ったが。
5分経過……
「な、なにもない……?」
「ティアー、どうする?」
散開していたスバルも通信でさすがに心配になっていれてくる。エリオもキャロもだった。
「あー、どういう考えなのか分からないけど、攻撃してこないのは確かに怪しいわね……」
「僕とスバルさんで近づいてみますか?」
それも一つの考えではあるが、AAAランクのなのはは今までのなのはより一回りは強敵。 ユーノさんはAランクとはいえ未知数だし……と客観的に考える、とそこでキャロが発言いいですか、と訪ねた。
「ええ、キャロも何か良い案あるの?」
「その……そういうわけではないんですが……これって、防衛突破戦って、フェイトさん言ってましたよね?」
「そういえば、今まであまりやったことがない訓練ね」
隊長戦のような戦闘でも、シュートイベーションでもなく、防衛突破戦である。 なのはがやった訓練では聞かない……って、そういうことはとティアナが気づいて、キャロはそのまま感じたことを言う。最初、ユーノが質問した防御の話を。
「おの、つまりなのはさんたちは拠点で防衛しているから、積極的に攻勢に出る必要がないんだと思います。 私たちの勝利条件は防御に徹しているなのはさんたちをどう叩くかで……」
「やられた……だからなのはさんたち、余裕であんなこと言ってたのね」
「えっと、どういうことティア?」
「ぼ、僕もよく分からないんですが……」
意味を理解したティアナとキャロ。していないスバルとエリオ。前線の人間はあまり考えない、というのは事実らしい。私をリーダーに選んだなのはさんの意図が分かったわ、と思いながら説明をする。
「防衛戦においては、攻者3倍の法則っていうのがあるのよ…… 防御側に対して、それを破るには3倍の戦力で攻撃しないといけないっていうね。まあ、これは戦略論だけど、なのはさんなら、確かに3倍でも無いと倒せないわね」
「げげっ……それって凄く大変じゃないの、ティア?」
「当たり前じゃない。相手は攻撃してくることを考慮して何かしら準備しているはずだから……5分も時間あげちゃったわね」
「もうそろそろ9分ぐらいになります」
そう、時間をあげるだけ防御側は防衛を強化している。 つまり、ティアナたちが勝つためには速攻で決めないといけなかった。しかし、なのはの訓練はあくまでもまず攻撃回避をして、相手の行動パターンを探ることが常だったために重要なことを忘れていたのだ。
なのはたちは、別に攻撃すらしなくてもよかったことに。
「なら、どうすればいいんですか、ティアナさん?」
「エリオ。本当なら速攻で決めるべきだったのよ、それに気づかなかった私達が馬鹿だったわ。 となると、時点は……」
「防衛線を戦力集中で突破、ですよね?」
「キャロ、今日はやけにとても冴えてる、そういうこと、さあいくわよ!」
「ティアナは気づいたみたいやけど、遅すぎやね。そろそろ10分…… なのはちゃんとユーノ君は完璧な防衛ラインを引いておるようやし、果たして突破できるかどうか」
「っていうか、なんであたしとはやてで解説と実況してるんだろう、はやて?」
「ああ、ヴィータ言いたいことは分かるけど、ここは重要なことは説明要員が欲しい、ただそれだけや。 いわゆる『攻者3倍の法則』は、唯一電撃的な速度を活かした攻撃においてまったく無意味になるんやよね」
説明って、あたしよりまともな奴が……とあたりを見回す。 フェイト……あいつが審判だったか シグナム……教えるなんてできないいったニート侍はあてにできるわけねぇーなぁ…… シャマル……今、ここにいない。医務室だなぁ? ザフィーラは……
「なのはママがんばれー!ザフィーラも応援応援!」
「ワン!」
犬だった。まったくあてはいない様子だった。まあ、はやてならいいけどと思って仕方なく話に戻す。
「うーん。初期防衛が展開できてない状態だと、電撃戦とも言う攻撃方法を取られると 防御できないからそのまま総崩れ。戦術レベルでも機動攻撃は防御が手薄じゃないと押し返されちゃう。 ティアナが気づくのは確かにはやてのいうとおり、遅いよ」
もっとも、それでも勝てたかは五分五分。この状態に入ってしまうと……ほぼ絶望か。
「なのはちゃんの防衛はどんなラインなんや?」
「なのはがブラスタービットと……って、なんであいつブラスタービット飛ばせるんだよ!?」
――――――――――――――
戦闘フィールドの……フォワード陣からは正反対の場所。 なのはとユーノの防衛拠点だった。
最初、ティアナたちがいきなり攻撃をしてくると思い、準備していたのだが普通に全員揃って隠れてしまって完全に呆然の魔法少女が一人。 「うーん。嬉しいのか悲しいのか分からない光景だよ……」 逃げたという意味で正しくなく、だけどちゃんといつもの訓練どおりではあり……複雑な心境だった。 「なのはの教導が行き届いていると思えばいいんじゃないかな?」 「なんだか、嬉しくないんだけどなぁ。そういうの」 バリアジャケット姿のユーノがなのはの隣には、いて。 それだけで、いつもと違う。そんなことが実感できた。 「それに、なのははいくら言っても、思いがままに行っちゃったし、ね?」 「そ、それは……」 ユーノとなのは。 初代パートナーコンビとしては、あまり言われたくないことも多かった。 なのはの天真爛漫。思うが侭に進むその性格は、同時にユーノがいくら抑えて、と行ってもフェイトと戦おうとしたり。実のところ、なのはもバトルマニアなのかもしれない。 「でも、久しぶりだね。二人でこうしているって……」 「そうだね。最後はもう数年前だったからね」 こうして背中を預けあうのも数年ぶり。訓練もまったく違う二人がこうやって寄り合うことは滅多に無かった。 「ユーノ君と一緒だと、やっぱり背中が安心だよー」 「そう?そう言ってくれると僕も嬉しいけど。なのはと一緒でね」 二人で揃って互いを見つめる。 両方とも笑みに赤みが帯びていたが、それは久しぶりなことが多分に含まれていた。 「そういえば、この前の通信でユーノ君、色々と言ってたよね。 新しい魔法を覚えたからって」 「色々とね。なのはも前より色々とできるんでしょう?」 「うん!もちろん!でも……今日は、ユーノ君に背中と防御は譲るから。 それが私……一番安心できるの」 だから、お願いね!と元気に言ってユーノに抱きついてしまうなのは。 ちょ、ちょっととユーノが叫び、ウインドウごしではやてたちとフェイトが思わず呆れてしまう。 まあ、結婚している二人としてはおかしくないのだが。 「あ、あのね!いきなり抱きつかないの、なのは!」 「えー。だってユーノ君だよ?気持ちいいもーん♪」 天然の素質があるなのはが思いっきりだれて。 その感じで10分。 レイジングハートがティアナたちが動き出したことを知らせる。ちゃっかりしたデバイスである。 「なのは、で防衛方針は?」 「うーん。防衛線にそれぞれユーノ君に任せるよー。私もビット出すけど……手伝ってくれるかな?」
「ブラスタービット?あれは、体への負担が大きいじゃなかったっけ」
そう、高町なのは最強のモードであるブラスターモード唯一の弱点は、自己ブーストをかけるために体への負担が極端に高いことを意味する。自身へのブーストは、いわばチートなのだ。
自己ブーストはタブーなのだ。それは明らかに限界を超えて無茶をしてしまう。 自分に対して魔法を使って強化する。一見すると強く見える。 しかし、魔法で自分を強くしても、そのための魔力は自分持ち。強化しているのに、自分でその魔法を負担するため、無茶が生じるのは自明の理。 例えば、100の魔力で、20を自己ブーストに回せば、150まで強化できるとしよう。 しかし、150のうち、20はブーストに使っているので、実際に使えるのは130。しかし体への負担は130ではなく150。つまり、自己ブースト最大の問題は、ブーストすればするほど、使える魔力以上に自己負担があがってしまうことにあった。
しかし、キャロのようなインクリース系を得意とするサポート役はなのはにはいない。そもそも、自己ブーストと普通のブーストはレベルも違う。 だから仕方ないことだったのだ。今という例外を除いて。
「だから、僕がなのはにブーストをすればいいんだね?」
「そういうことだよ。本当にこの前頼んだ時、ユーノ君がブーストできるって言って驚いたよ。 ユーノ君もブースト用のインクリース魔法使えること教えてくれればよかったのに……そうすれば」
自分は、きっとユーノ君を六課に入れていた。自分が負担することは過度の負担。 それは、彼を心配させる最もたる要因だったのだから。
分かっていた。結婚なんていつの間にか惰性でしていた二人が思ったのは、ただ単に互いへの思いやりという単純かつ純粋な願い。 恋じゃない、それは愛に近い思い。
「ああ、それね……君が自己ブーストで無茶していること知ってから、その……勉強したから」
「ほへぇ?」
でも、ユーノにとって、なのはの自己ブーストは、心配事の最もたるものだった。 それ以外の方法が無い限り、なのははきっとまた自己ブーストする。そうすれば、体への負担はさらに増える。 矛盾する二つの論理を解決するためには……『自己』じゃなくても、自己ブーストなみの効果が得られれば良い。
なのはに、もう苦しい顔をしてほしくなかったから。
それが、ユーノの、ありのままの思い。 照れている様子のユーノがなのはのすぐ隣まで近づいて。
「えっとね、つまり。なのはのために覚えたの」
私のため、という言葉の意味を理解してなんだか背中がとっても暖かく感じる。 彼はもう一緒に戦うことがない、と知りながら自分のために勉強していた事実に。暖かみを感じたから。
「なのは専用だから……実はこれもちょっぴりチートかも」
「そうなんだ……それじゃあやってくれるかな?」
うん、という返事とともにユーノの前にミッド式の魔法陣が展開する。しかも、それは2重、3重に次々と増える。
『魔力を、攻撃の矢を、防御の盾を強化せし……ユメへの架け橋。 願いを叶えよ。我は望む、かのモノの全力と、何よりも諦めない思いを……』
魔法の詠唱。それはなのはが知る、いや知られているすべての魔法とは違った。 ユーノ君のオリジナル魔法。そうなんだ、と何か確信めいたものを感じて。
『ブースト&エンチャント! リミットアウト・クレイドル!(限界を超えても揺りかごのように)』
まるで、ブラスターモードを使っているかのような魔力。同時にまったく感じない体への負担。 嘘みたい・・・・・・そう語るに値した。すべてがいつもの限界を超えたように感じた。でも、負担が無かった。 体を緑と桃色の魔力光が包み込み、それは赤ちゃんを包む揺りかごのようにすら見える。
――揺りかごのように、とはその状態を見事に言い得ていた。
「す……す、すっごいよ!ユーノ君!」
負担が無いのに、リミットは確実に解除されている、いやそれはリミットでは無いかと思わせるようだった。 まるで新しいリミットが高くにできて、今までのリミットをすらっと過ぎぬけたかのように。
そんなありえないとしかいえない状態が目の前にあった。それだけになのはは驚いた様子のままユーノの方を向いて言い続けた。
「でも、これには色々と制約がつくけどね…… 使用を終えて空中に拡散した魔力をリミットアウトと新しいリミットのために使っているから、スターライトブレイカーが打てないことが一つ」
空気中からずっと供給される魔力。ユーノの魔法はそれら大気魔力を利用して限界を超え、かつ同時にエネルギーを制御するために使うことを考慮した魔法。
「後は、この状態だとエネルギー管理を僕がなのはの魔力管理までしているから、カードリッジシステムのような過激な追加魔力が出来ないってこと」
「つまり、体はパワーアップしても、カードリッジは使えなくて……それ以外は」
「原則として、だけどスターライトブレイカークラスの魔法を使うことはできないね。 ただ、同時制御数とかは、僕が補正する分増えるはずだよ」
「ほへ……凄いね、やっぱり。ユーノ君は」
「……凄くないよ、君を僕は守れなかったから」
この魔法だけでも十分に凄いのに、となのはは思う。 予想以上だった。ユーノ君と自分なら、と思っていた。でも、これはきっと。
だから、これは本当に自分の願い。ゆっくちろ彼の方へ向きを変えて……
「レイジングハート、通信を一切シャットダウンね。 ……ユーノ君、私はそう思っては無いよ。私は誰かがいるから、がんばれる。 フェイトちゃんがいるから、はやてちゃんがいるから、ヴィヴィオがいるから…… そして、何よりユーノ君がいるから。 どれだけ離れていても、それでもユーノ君がいると思うだけで背中は温かいから これだけは、嘘偽りじゃない。」
「なのは……ありがとう」
「ううん。こんな魔法を用意してくれたユーノ君にこそ、だよ」
無茶な大砲を撃たない限りにおいて、ブラスターモードのような魔力量を維持できる。 特にこれにおいて難度が高いのが、ブラスタービット。それも、扱いに気をつければ大量に使えるということで。 レイジングハートをエクシードモードにして。
――新人たち……ごめんなさい、ちょっと地獄かも。
そんなことを思っても、やってしまうのは。彼がそんなことをやれる舞台を作ってしまうのが悪いのだ。きっと。 ユーノも再度転送魔法を用意していた。
「ブラスタービット。防衛線に展開!」
「転送魔法。防衛用オートスフィア45基!」
防衛戦というのは地獄みたいなものだ。 特に突破するほうは悪夢に近い。
「ブ、ブラスターピット!?わ、私達を殺すつもりですか、なのはさん!」
開始から15分後、ティアナたちはゆっくりと気づかれないようになのはたちのいる拠点まで移動しようとして、なのはとユーノが用意していた防衛線に引っかかった。 ブラスターピット2基にオートスフィアが45基。しかも、オートスフィアはガジェット・ドローンのデータ込み以上にいくつから遠距離からユーノが直接指示を出していたためにやけに強く、対処だけで全力を出さざるえなくなった。
しかも、積極的攻勢に出ず、防御に徹しているだけに厄介なのだ。もし、攻勢にでるガジェット・ドローンのようなタイプなら、隙が出来る。が防御に徹しているということは、つまり隙を作らないようにしているわけで、撃墜することだけに限って言えば、ガジェットよりよっぽどたちが悪い。
あの優しそうな司書長、実は性格ひねくれてるわね、と操作しているであろうユーノにそんな言葉を投げかけたくなる衝動に駆られるティアナだった。
もっとも、ブラスターピットだって、なのはの魔力だけで作られた誘導砲撃子機みたいなものだから、撃破ができないわけじゃない。しかし、恐らくなのは自身が後方から操作しているため、攻撃が当たらない。
「もう!これじゃあ終わらないわね……私とキャロが中央部のブラスターピットとオートスフィアに火力を集中するから、その間にエリオとスバル!あんたたちで中央部の敵を徹底的に切り倒して、突破できる道を作って!」
「全部破壊しなくていいの!ティア!」
「全部破壊することは任務には入って無いわ、さっさと突破してなのはさんたちと対峙しないと話にすらならないわ!キャロ!」
時間には30分の制限がある。たとえ、なのはさんたちを倒しても時間を過ぎてしまえば意味が無いのだ。 そういう意味で、この作戦は意地悪だ。なのはとしては珍しい分類だった。
「はい!フリード!ブラストレイ!」
「これで見返しね……クロスファイアーシュート!」
フリードが白銀の飛竜の口から、強力な火力を振り上げる。 炎の濁流が、指定した面を一斉に制圧。残った部分に対してクロスファイアーシュートが次々とオートスフィアに命中する。
それらをブラスターピットは上手く避ける……が!
「リボルバァァァー!キャノンッッッ!!」
砲撃の煙からスバルが、リボルバーキャノンでしとめる。 さすがに距離があるので、なのはの指示もおくれてしまい、そのまま撃墜。 残った一基が、ディバインバスターのチャージをするが、それもエリオが気づくとチャージをするピットに急いで近づくと。
「これでどうだっ!」
《Thunder Rage》
ストラーダをピットにぶつけて、そのまま電撃をぶち込む。
「さあ、さっさとここを突破するわよ!」
それと同時に残っている部隊を無視して、突破する。 完全な電撃戦を様相を、それは呈していた。 キャロとティアナが全力で隠れていたビル影から大きく道に開いた穴を通って防衛ラインを抜ける。 前線に最初からスバルとエリオはそれを支援するようにしつつ同時に抜けた。
それは審判をしていたフェイトがもっともよく感じていた。上空監視を続けていたフェイトは それを一番分かりやすい位置にいたといっていいだろう。
「しかし、防衛ラインがやけにすぐ突破されたような……」
なのはとユーノの防衛線だ。普通なら、そんな簡単に突破できない。 しかもなのははAAAランクでしかも、限界を部分的にユーノの魔法「リミットアウト・クレイドル」で突破している。正直、フェイトですら勝てる気がしない。
まるで、突破してくださいというような…… ――ま、まさかね?
しかし、事実はそのまさかだった。
そんなこんなで、開始より25分。最終防衛ライン。
「うーん。予想以上に楽に突破してきたね、皆揃って?」
「こ、これが楽ですか……!?」
ぜぇぜぇぜぇ。ティアナが息を切らしながらそうなんとか言い切る。 空の上にはなのはが余裕の笑みで浮いていた。しかも、エクシードモード。あれはやる気満々だった。
ただ、助かったのはもうスフィアも、ピットもないこと。
「ティア!どうする!」
「どうするもこうするもないわよ!なのはさんに火力を集中!なのはさんさえ倒せば後はすぐよ!」
ユーノさんはAランクなんだから、という前になのはの方が動き出す。 そのユーノが見当たらないことが唯一の気がかりだったが、サポート主体だから前線に出ることを嫌ったのだろうとティアナは解釈した。 それは、一般的には正しかった。だが、この二人に限っては……
ティアナの指示と同時に、レイジングハートからいくつものディバインシューターが飛び出す。それだけならただのディバインシューターなのだが……
「か、数が多い!?しかも……弾速がクレイジー(狂ってる)じゃない!」
「ユーノ君が手伝ってるからね!ティアナ!」
一直線、あるいは最短距離で飛び交うディバインシューターが、くねくねと変則気味に飛び交う。 しかも、変則気味と言っても早く、また数も多い。
「なら……シュートバレット バレットF!」
それはいつもと比べれば、ざっと3倍のなのはの砲撃。 エリオもそれに応じてティアナとキャロのアシストのために引く。
危険な弾は、ティアナのシュートバレットとぶつかり相殺される。これでは埒が明かないなぁ、と。 その後ろを狙ってスバルがウイングロードを全力で走り近づく。
それでも、なのはは何も防御をしない。これはチャンスと最大限の魔力を叩き込もうとスバルはした。 ディバインバスターだ。
「これで!!後ろもらいました!ディバインバス「ストラグルバインド!」えっ!?」
「スバル、私は別に見て無いじゃない。見る必要が無かったんだよ?」
なのはまで後一歩の場所まで到達した時に、いきなりいくつものストラグルバインドが現れてスバルを縛る。 なのはの背の先から迷彩が解けたようにユーノが現れて……そこからストラグルバインドが流れていた。
「オ、オプティックハイド!?ユーノさん、そんなことまで出来たんですか!?」
「あの、スバルさんでいい?最悪の事態というか、僕がいない時点で何かあるって思ってくれないと 実戦だと何があるか分からないというかね」
「ユーノ君、何解説してるの!」
なのはが訓練中でしょ、と怒っているのか笑っているのか分からないような声で叫ぶ。 あーあ、そうだったというとユーノはにっこりした笑顔のまま問いを突然出す。
「ストラグルバインドの効果は……魔力結合阻害だよ、スバルさん?」
「えっ!?あっ、ウイングロード!?」
「もう!スバル!シュートバレット・バレットC!」
それと同じくして一瞬にして消えるウイングロード。 バインドのまま消えれば、そのまま重力とバインドで宙吊りになり、何も出来なくなりかねない。
同時にティアナがシュートバレットを打ち込み 着弾直前で弾が拡散してバインド全体を破壊したので事なきを得る。
「クラスター弾かぁ。私、教えて無いんだけどなぁ」
「なのははそういう精密操作系は苦手だもんね」
「うっ……って、ユーノ君よく今でも私が苦手だって分かるね?」
「分からなきゃ、処理の手伝いなんてしないよ!」
背中を互いに互いの背中を当てながらも、ちゃんとなのはは誘導弾を、ユーノはなのはの処理を手伝いながら、バインドやシールドを張って攻撃を防ぐ。 話しながら、余裕で4人を抑える様子は、見ているほうからすれば、見事としか言いようが無い。
ティアナとキャロの射撃の牽制とともにエリオが近づいて切り倒そうとしても、そのたびにバインドが出て、それを突破してもユーノがなのはの前に出てシールドで攻撃を受け止めてしまう。
「やってもやってもきりが無い、ですね」
「エリオ、確かに守りが硬過ぎて…… いつものなのはさんの戦い方と違って受動体だから、私達への攻撃は控えめなんだけど……」
でも、事実フォワード陣はここまでたどり着くのに体力を使い、なのはとユーノは完全に余裕だった。 守りだとここまで余裕なのか、と思うほど……
しかし、そこまで考えておかしいことに気づく。 なのはさんが、あのなのはさんが一切砲撃をしていない、という事実に。
それに……
「ピットが無い?」
「ティアナさんも気づきましたか?」
横でフリードに指示をしながら補助魔法を使おうとしていたキャロがティアナの言葉に反応して声を返す。 スフィアが無いのは物理的な意味として、ピットがないのは理由にならない。 リミットアウト・クレイドルという魔法は、スターライトブレイカーのように残滓程度の魔力すら集めている。 つまり、破壊したピットも魔力として結果的に集まっていることになる。それなのに今、ここにあるのは……
「やばい!スバル、エリオ撤退よ!」
「「ええっ!?!?」」
「えっ、じゃない!ここは爆心地になるのよ、恐らく遠距離にあるオプティックハイドで隠したピットが!」
ティアナの叫び声で残り時間が1分をきっていて、もう一度最後の一撃を、としていた二人の動きが止まる。 同時になのはとユーノの笑みが。
「ティアナ、大正解。じゃ、さようなら♪」
「転送魔法!目標、爆心地外!」
背中を当てていたのは、別に守るためとかじゃない。 転送魔法をかけるとき、一緒に転送することでロスをなくすこと。
緑色の円形魔法陣が展開され、その中でなのはとユーノが消え始め……
その戦っていた中心から離れた位置に囲むように展開していたオプティックハイドが隠されていたピットが現れた。それらは緑と桃色の魔力光が充満していて……
「「ディバインバスター・フルバーストッッッッ!!!」」
制御の補佐をしていたユーノと、指示を出し、制御していたなのは。 二人のが消える寸前に言った言葉と同時にそれらはその区画全体に許しの一つすらなく光散らす。
それは、スターライトブレイカーが使えない状態でもっとも凶悪な広域殲滅魔法だった。